アビガンは現在、富士フイルム富山化学が国内と米国で治験を実施しているほか、同社とライセンス契約したインドの大手製薬企業などがクウェートで千人規模の治験を始める予定だという。

 大規模な臨床試験で、効果がないと判明した候補薬もある。トランプ米大統領が予防的に飲んでいると公表するなど、積極的に推奨して問題になっている抗マラリア薬のヒドロキシクロロキン(商品名プラケニル)もその一つだ。英国で実施された大規模な臨床試験「RECOVERY(Randomised Evaluation of COVid-19 thERapY)」で、使った1542人と使わなかった3132人の間で、死亡率も退院までの日数も差がなかった。

 また、RECOVERY試験では、抗HIV(エイズウイルス)治療薬ロピナビル・リトナビル(商品名カレトラ配合剤)も、効果がみられないと判断された。

 こういった結果について、藤田医科大の土井教授は「もともと別の病原体や疾患を対象に開発された薬なので、新型コロナウイルスの治療について検証の必要はあったが、効果がなくても仕方ない」とみる。

 新型コロナウイルスに感染してから重症化するまでには、さまざまな過程がある。まず、ウイルスの表面にある突起状のたんぱく質が、ヒトののどや鼻などの粘膜にある細胞表面のたんぱく質と結合する。すると、細胞膜とウイルスの膜が融合し、ウイルスは細胞内に侵入する。

 その後、ウイルスの遺伝情報を担うRNAが細胞内に放出され、RNAが複製されると同時に、ウイルスのたんぱく質が合成される。新たにできたRNAとたんぱく質が組み立てられて、新たなウイルスとなり、細胞の外に放出される。

 ウイルスに感染すると、肺など呼吸器を中心に、体内のあちこちで炎症が起きる。肺の炎症が重くなると肺炎になる。

 治療薬はそれぞれ、こうした過程を標的にする。ウイルスがヒト細胞に結合する部分を標的にするのは、東京大学医科学研究所などが新型コロナウイルスでの効果を見つけた、ナファモスタット(商品名フサン)だ。もともとは膵炎(すいえん)などの治療に使われており、抗炎症効果もあると期待され、臨床研究が始まった。

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