女性アーティストからインスピレーションを得ることが多い矢部の魅力を伝えるかのように、鈴木祥子、菅野みち子ら女性アーティストの参加や女性とのコラボ曲が多いのも本作の粋なところ。特に、「加藤千晶+鳥羽修」の他、「鈴木さえ子+tomisiro」「鈴木博文+emma」「naomiche and keiiche」「ポニーのヒサミツ+中川理沙」など男女の組み合わせが多いのもほほ笑ましい。

 矢部浩志というアーティストはこんなにもポップかつフェミニン、都会的なポップスを多く書いていたのか……と改めて気づかせてくれるこのトリビュート・アルバム。レーベルである「なりすレコード」の通販ページからのみ購入でき、制作にかかった経費を除いた売り上げ全額が矢部の闘病支援のために寄付される。こうした音楽家が日本のポップ・ミュージックの歴史を陰でしっかりと支えているということを知っておいてほしい。(文/岡村詩野)

AERAオンライン限定記事

著者プロフィールを見る
岡村詩野

岡村詩野

岡村詩野(おかむら・しの)/1967年、東京都生まれ。音楽評論家。音楽メディア『TURN』編集長/プロデューサー。「ミュージック・マガジン」「VOGUE NIPPON」など多数のメディアで執筆中。京都精華大学非常勤講師、ラジオ番組「Imaginary Line」(FM京都)パーソナリティー、音楽ライター講座(オトトイの学校)講師も務める

岡村詩野の記事一覧はこちら