この自己申告制は、出産祝いの際も発揮されます。出産を控えた人が、ベビー・レジストリなるサービスを利用して欲しい商品をリスト化し、周囲はそのリストにあるものを購入します。ひとくちに出産といっても、小さく産まれる子・大きく産まれる子、きょうだいや甥姪のおさがりがある子・ない子、車移動がメインの家庭・そうでない家庭……など、人によって必要な品々は千差万別です。親の好みもありますしね。相手が欲しいものだけを贈れるシステムは、とても合理的です。

 出産した家庭をお祝いするサービスには、「ミールトレイン」なるものもあります。アメリカには昔から出産、病気、死別などでサポートを必要とする家庭に有志が交代でごはんを作って持っていく文化があり、それをオンラインで企画・管理できるサービスがミールトレインです。出産を終えた人(もしくはその代理)が、家族の人数や、ごはんを持ってきてほしい期間(だいたい産後1週間くらい)を設定します。アレルギーの有無はもちろん、「キノコは苦手だから入れないで」など、食の好みも具体的に記します。相手が欲しいものだけを作っていけるシステムは、とても合理的です。

 このアメリカ的な合理性を、味気ないと思われるかたもいるかもしれません。出産祝いはサプライズにしたいのに、事前に何が欲しいか指定されたら台無しだ、なんて。でも、出産を2回経験した立場からしたら、こちらはサプライズなど望んでいないのです。新生児との生活は、毎日がサプライズ。緑色のウンチにびっくりしたり、1時間も2時間も泣きとおす赤ん坊の体力に驚嘆したりして、心が休まる暇はありません。そして「早く寝かせたい」とか「早く自分が寝たい」といった親の意思がことごとく子どもに無視されるため、せめて出産祝いくらいは自分の意思でコントロールしたい……というのが、新米父母の本音じゃないかと思います。

 アメリカでも、ウェディング・レジストリやベビー・レジストリのような仕組みが一般的になったのはつい最近です。「出産祝いが被って、今うちにベビーカーが2台もあるのよ~」みたいな笑い話が、昔はちょくちょくあったのだとか。数多のがっかりプレゼント応酬を経て、今日の合理的なシステムが確立されたのでしょう。日本ではまだ、欲しいものを自分からリクエストするなんて図々しいんじゃないかと躊躇する人もいるかもしれませんが、いらないものはいらない・欲しいものはこれだと事前に伝えるほうが、お互いにとって気持ちいい結果が訪れるはずです。

◯大井美紗子
おおい・みさこ/アメリカ在住ライター。1986年長野県生まれ。海外書き人クラブ会員。大阪大学文学部卒業後、出版社で育児書の編集者を務める。渡米を機に独立し、日経DUALやサライ.jp、ジュニアエラなどでアメリカの生活文化に関する記事を執筆している。2016年に第1子を日本で、19年に第2子をアメリカで出産。ツイッター:@misakohi

AERAオンライン限定記事

著者プロフィールを見る
大井美紗子

大井美紗子

大井美紗子(おおい・みさこ)/ライター・翻訳業。1986年長野県生まれ。大阪大学文学部英米文学・英語学専攻卒業後、書籍編集者を経てフリーに。アメリカで約5年暮らし、最近、日本に帰国。娘、息子、夫と東京在住。ツイッター:@misakohi

大井美紗子の記事一覧はこちら