事前に赤ちゃんの名前や性別をおひろめし、欲しいものをベビー・レジストリで申告するのが一般的なアメリカ(写真/本人提供)
事前に赤ちゃんの名前や性別をおひろめし、欲しいものをベビー・レジストリで申告するのが一般的なアメリカ(写真/本人提供)

 誰しも一度は、「こりゃいらないわー」というがっかりプレゼントをもらったことがあると思うんですが、いかがでしょう。私にとってそれは、退職時に受け取った花束でした。かつて勤めていた会社には、退職者の最終勤務日に花束を贈る習慣がありました。下っ端社員の私はたまに職場を去る先輩方のために花束を手配していたのですが、いざ自分の番になると……正直、いらない。なぜなら、最終勤務日が会社から家賃補助が出ている家の退去日だったからです。

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 最後の仕事を終えたら、その晩はホテルに泊まる予定でした。帰る家がないのに花束なんてもらったら困っちゃうな、でももらう前から先回りしていりませんと断るのはこっぱずかしい。だって、もらえる保証なんてどこにもないでしょう。そう、たかだか入社5年目の下っ端が花束をもらえる保証なんて全然ない。むしろもらえると思っていることがおかしいだろう……と自分に言い聞かせて出社した退職日当日、私の机の上には、もちろん豪華な花束が輝いていたのでした。

 花束は、その日泊まったホテルの部屋に置いてきてしまいました。「もらう前から断るなんて恥ずかしい」、そんなちっぽけなエゴのために、花束を手配してくれた先輩の厚意も労力も、会社からのお花代も、きれいなお花も、台無しにしてしまったのです。恥をかいてもいいからひと言「いりません」と事前に伝えたらよかった……と、虚しいくらいに大輪の花々を眺めながら後悔しました。

 さて、退職後にアメリカへ引っ越した私は、とても便利な制度を知りました。それが、プレゼントの自己申告制です。たとえば結婚祝い。新郎新婦がウェディング・レジストリ(あるいはブライダル・レジストリ)と呼ばれるサービスを通じて欲しいものリストを作り、結婚式の参列者やその他お祝いしたい人たちがそのリストに載っている商品を先着順で購入する仕組みになっています。商品そのものを買わなくても、好きな額だけカンパすることもできます。

 また、アメリカの園・学校には、先生への感謝週間(Teacher Appreciation Week)だったり、バレンタインデーやクリスマスだったりと、生徒から先生へプレゼントを渡す機会がちょくちょくあります。そのとき、学校側から事前にどんなプレゼントが欲しいかリクエストがあるのです。「例年、文房具やハンドサニタイザーをもらって助かっています」とか、「私たちはコーヒーとドーナッツで一日を始めるのが大好きです!」とか。寄付を募るときなどは、「〇〇、△△が足りていません。□□、◇◇は十分あるので必要ありません」と、より具体的な指示があります。

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大井美紗子

大井美紗子

大井美紗子(おおい・みさこ)/ライター・翻訳業。1986年長野県生まれ。大阪大学文学部英米文学・英語学専攻卒業後、書籍編集者を経てフリーに。アメリカで約5年暮らし、最近、日本に帰国。娘、息子、夫と東京在住。ツイッター:@misakohi

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