梶裕子(かじ・ひろこ)/1961年、石川県生まれ。京都女子大学文学部国文学科卒。父は「梶古美術」の6代目で夫が7代目。自らは「うつわや あ花音」を開き、現代作家の器を紹介している(撮影/楠本涼)
梶裕子(かじ・ひろこ)/1961年、石川県生まれ。京都女子大学文学部国文学科卒。父は「梶古美術」の6代目で夫が7代目。自らは「うつわや あ花音」を開き、現代作家の器を紹介している(撮影/楠本涼)

 AERAで連載中の「この人この本」では、いま読んでおくべき一冊を取り上げ、そこに込めた思いや舞台裏を著者にインタビュー。「書店員さんオススメの一冊」では、売り場を預かる各書店の担当者がイチオシの作品を挙げています。

『御菓子司 聚洸の源氏物語』では、京都で器を商う著者が、参加する「源氏物語」の勉強会で供した生菓子を数々の器に載せて紹介。名作古典と繊細な和菓子の世界が溶け合って、想像力を刺激する一冊だ。著者の梶裕子さんに、同著に込めた思いを聞いた。

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「源氏物語」や「枕草子」などの古典を読むたびに、京都の人が羨(うらや)ましかった。四季折々の生活空間が、そのまま作品の舞台となっているからである。南禅寺の参道にある「うつわや あ花音(かね)」の店主・梶裕子さん(59)も、その恵みを日々感じながら暮らす一人だ。訪ねたのは梅雨に打たれた緑が目に染みるような日の午後だった。梶さんは裏千家直門の茶人でもある。

「夫が経営する古美術店の2階で、2014年から月に1度、福嶋昭治先生をお招きして『源氏物語』を講読する『紫香の集い』という集まりを開いていました。そこでは会の始めにお抹茶とお菓子を差し上げています。せっかくならテーマに合わせたオリジナルなお菓子を出したいと考えた時に思い浮かべたのが、御菓子司(おかしし)『聚洸(じゅこう)』のご主人・高家裕典さんでした」

 高家さんのお菓子はおいしく、とびきり美しい。彼ならぴったりだと梶さんは考えた。

「『僕、「源氏物語」のことは知らないし、国語は苦手でした』と言われましたけどね(笑)。福嶋先生にお菓子のヒントをいただき、あとはふたりで試行錯誤です。私がうっかり『紅白百合根がいいね』と言ったものだから、高家さんは人数分のお菓子を作るのに徹夜して、百合根を半分赤に染めたんです」

 次に取り上げるテーマと副題がわかると、その「お題」にふさわしいお菓子を考える。この本では、試作を経て完成したお菓子をさまざまな器との取り合わせで撮影し、アイデアの元となった「源氏物語」の一節、お菓子の材料と技法を添えて紹介してある。和菓子の多彩な技法をすべて使ったのではないかと思われる繊細なお菓子ばかりである。

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