「私たちのライブに誰も集まらないでくれてありがとう」

 二つのミュージカルは人に近づけないもどかしさ、観客のいない寂しさが漂うが、物語に込めた諦めない希望、人と心で触れ合う温かさが心を揺さぶる。鑑賞した人たちのツイッターにも、「ずっとずっと待ってた」「観ていて涙が止まらない」と舞台の再開を喜ぶ声が溢れた。

生田:お稽古には私たちが「ソーシャルディスタンス・ディレクター」と呼ぶ方がいて、俳優の距離をつねにチェックしていたんです。その指示で距離を保ちながら、体や顔の向きを変えたり、演出も影響を受けることがありました。

妃海:「CALL」はバンドメンバーも含めて、一番多いときで8人が舞台上に。でも、演出も担当した三浦さんは、俳優の間隔に意味を持たせたんです。たとえばジャケットを人に渡すとき、普通は体を近づけますよね。でも、ジャケットが臭かったりしたら、離れて渡したくなる。そんなふうに心の変化が、距離に表れるように物語と演出に工夫があったんです。

生田:ネット中継されるので表情にも気配りが必要でしたよね。私はこれまでの舞台では、体を大きく使うことで感情を伝えていました。でも、今回はひそやかな雰囲気のほぼ2人芝居でしたし、テレビドラマのように、顔のこまやかな表情も意識して演じました。

妃海:「体の正面は客席に向ける」など、舞台にはいろいろな約束事がありますが、今回の舞台が面白かったのは、カメラが私たちを追いかけてくれること。そのメリットを生かして、客席に背を向けたり、客席に下りたり、より自由に演じることができたと思います。

(ライター・角田奈穂子)

AERA 2020年8月3日号抜粋