ヒューリック杯棋聖戦第4局で渡辺明三冠(当時)を破って史上最年少でタイトルを獲得し、対局を振り返る藤井聡太新棋聖(奥)/7月16日、大阪市福島区(代表撮影)
ヒューリック杯棋聖戦第4局で渡辺明三冠(当時)を破って史上最年少でタイトルを獲得し、対局を振り返る藤井聡太新棋聖(奥)/7月16日、大阪市福島区(代表撮影)
弁護士 杉村達也さん(33)/2014年に弁護士登録、千葉県弁護士会所属。趣味の将棋でAIソフト開発に取り組み、今年5月のオンライン世界大会で優勝(写真:杉村さん提供)
弁護士 杉村達也さん(33)/2014年に弁護士登録、千葉県弁護士会所属。趣味の将棋でAIソフト開発に取り組み、今年5月のオンライン世界大会で優勝(写真:杉村さん提供)
世界一になった将棋ソフト「水匠」。画面は開発者の杉村さんが今回の棋聖戦第3局の棋譜を読み込ませ、計測したものだ(写真:杉村さん提供)
世界一になった将棋ソフト「水匠」。画面は開発者の杉村さんが今回の棋聖戦第3局の棋譜を読み込ませ、計測したものだ(写真:杉村さん提供)

 史上最年少で8大タイトルの一つを戴冠した藤井聡太棋聖の強さはもはや事件と言える。世界一の将棋AI作者がその強さの源泉を語った、AERA 2020年8月3日号の記事を紹介する。

【写真】世界一になった将棋ソフト「水匠」

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 18歳の誕生日を目前に8大タイトルの一つ「棋聖」を獲得し、最年少戴冠記録を30年ぶりに更新した藤井聡太・新棋聖(18)が強過ぎる。あどけない表情や時折見せる破顔と対照的な、相手の攻撃を受けきって返す切れ味は、戦慄を覚えるほどだ。人間の棋力を上回って久しいとされるAI(人工知能)の活用が巧みな故か、はたまた別の要因か。「天才」の二文字で片づけられない強さの源泉を探った。

 7月16日のヒューリック杯棋聖戦五番勝負第4局で藤井棋聖に敗れ、棋聖位を失った渡辺明二冠(36)は翌日、自身が負けた1、2、4局についてブログにこうアップした。

「負け方がどれも想像を超えてるので、もうなんなんだろうね、という感じです」

「今後に向けてという点ではこの指し方を真似するのは無理なので、自分の長所を生かして対抗できる策を見つけるしかないと思いますが、(それが上手くいったのが第3局)勝ちパターンがそれしかないのでは厳しいので、次の機会までに考えます」

 渡辺二冠は羽生善治十九世名人(49)の次、藤井新棋聖の前に中学生でプロ棋士(四段以上)になった「天才」の系譜であり、獲得したタイトルは合計25期。竜王と棋王については永世称号の資格を持つ。現在は名人位をかけて豊島将之名人・竜王との七番勝負に臨んでいるこの「現役最強棋士」を、17歳の少年がここまで圧倒するのは「事件」に近い衝撃だ。異次元の強さを引き出したのは、藤井棋聖が積極的に研究に採り入れているというAIなのか。

「藤井さんが中終盤に強いのは、AIに依存しているのではなく、彼自身の努力の結果だと思います。AIがあるから強くなったのではなく、強くて努力されている方がAIも利用してより高みに行ったという印象です」

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