鈴木慶一さんとKERAさん(写真提供:日本コロムビア/ベター・デイズ)
鈴木慶一さんとKERAさん(写真提供:日本コロムビア/ベター・デイズ)
「駄々録~Dadalogue」のジャケット(写真提供:日本コロムビア/ベター・デイズ)
「駄々録~Dadalogue」のジャケット(写真提供:日本コロムビア/ベター・デイズ)

 今日のロックやポップ・ミュージックが、本来は古典的な大衆芸能の延長線上にあることを改めて伝える素晴らしい作品が届いた。鈴木慶一とKERAとのユニット「No Lie-Sense」による「駄々録~Dadalogue」だ。

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 鈴木慶一は日本最古のロック・バンド、東京最強のロック・バンドと言ってもいい「ムーンライダーズ」のリーダー。日本のロック黎明(れい・めい)期の1970年に結成された「はちみつぱい」を本格的キャリアの出発点とし、68歳になる今に至るまで、常に新しいことにトライし続けるミュージシャンだ。

 「ムーンライダーズ」とは別に、自分の子どもほど年齢の離れたメンバーと新しいバンド「コントロヴァーシャル・スパーク」を結成してみたり、ソロ名義では『座頭市』『アウトレイジ』など北野武監督による映画作品のサントラなど数多くの劇伴を手がけたりと、鈴木慶一の行動範囲はとにかく広い。しかも休む間がないほど多忙。同世代の高橋幸宏(YMOほか)と組む「THE BEATNIKS」での活動もファンの間では知られているが、こうした活動の一つひとつが鈴木慶一にとって常に実験の場となっているのが興味深い。

 かたやKERAは、ケラリーノ・サンドロヴィッチとしての活動が有名だろう。劇作家、脚本家、映画監督、演出家……。演劇のフィールドにおいてさえ、その肩書は一つに収まることはない。主宰する「ナイロン100℃」での公演はもとより、ほぼ毎年1作、ないしは2作以上の作品の演出、脚本を手掛けている。これまでに多くの受賞歴を持つが、2018年には紫綬褒章を受章。来年に開催予定の東京パラリンピックの開会式のステージ演出を務めることも決定している。

 一方でKERAは1980年代から音楽活動にも積極的で、「有頂天」「LONG VACATION」「ケラ&ザ・シンセサイザーズ」などのバンドでリーダーとして活躍しながら、インディー・レーベル「ナゴム」も運営するなど、幅広い領域でその才能を発揮してきた。今もミュージシャンとしてライブ・ハウスのステージに立ち、アルバム制作にも腐心する柔軟なクリエーターだ。

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岡村詩野

岡村詩野

岡村詩野(おかむら・しの)/1967年、東京都生まれ。音楽評論家。音楽メディア『TURN』編集長/プロデューサー。「ミュージック・マガジン」「VOGUE NIPPON」など多数のメディアで執筆中。京都精華大学非常勤講師、ラジオ番組「Imaginary Line」(FM京都)パーソナリティー、音楽ライター講座(オトトイの学校)講師も務める

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