――いい対策は、すべての国に広がればいいのにね。

 そのために大切なのがWHO(世界保健機関)だ。細菌やウイルスは自由に国境を越えて広がるから、世界の人たちがみんなで手をつなぐことはとても大切だよね。

 WHOの現在の主な役割は、対策が遅れがちな発展途上の国々への援助だ。今回のような場合、リーダーシップを発揮して対策を打ち出し、各国がそれに従う態勢にはなっていない。だから、アメリカが、WHOの対応が中国寄りだと批判し、脱退を表明するようなことが起きてしまう。これを機にWHOの役割を強化して、世界が一つになって対策を進めてほしいね。

――これから、新型コロナウイルスの流行を終息させるには、何が必要なの?

 ワクチンや薬ができるまでは、まだしばらく時間がかかると思う。スペイン風邪の例を見ても、第2波、第3波の流行が起きると考えたほうがいい。完全に防ごうと思ったら、なるべくほかの人と接触せず、家に引きこもらないといけない。

――そんなの嫌だよ。

 そうだよね。感染症と闘うには、ウイルスや薬という手段が必要だ。でも、今はまだないから、「闘う」のではなく、「つきあう」という考え方が必要だ。

 では、私たちは新型コロナウイルスとどうつきあえばいいのだろう? マスクなどの対策は今後も続けるべきだ。でも、いろいろな考え方があるから、強制するのは難しい。今回の対策には、握手や会話などのコミュニケーション手段を制限するものも多い。長引くと、心に大きなダメージを与えると思う。そんなことも考慮して、言われたことを守るだけでなく、新型コロナウイルスとどうつきあうべきか、自分の頭で考えてみてほしいね。

 もう一つ、心がけてほしいのは、新型コロナウイルスが終息した後も、ずっと感染症の恐ろしさを忘れないことだ。

――こんなつらい経験をしたんだから、言われなくても忘れないよ!

 頼もしいね! でも、油断は禁物だよ。さっき、日本はSARSやMERSでは患者が出なかったと言ったけれど、2009年に新型インフルエンザが世界的に大流行したときは、ほかの国より少ないものの、199人の死者が出た。その経験から、政府が対策を進めていたけれど、11年に東日本大震災が起きて、そちらの対策が優先されたんだ。

 もちろん、感染症対策も大事だけど、地震は、建物や道路などあらゆるものが瞬時に打撃を受け、立ち直るのに手間も時間もかかる。だから、そちらの対策が優先される。実は、約100年前のスペイン風邪のときにも、後で関東大震災が起きて大きな被害をもたらした。だから、スペイン風邪のことも忘れられがちなんだ。

 物理学者で随筆家の寺田寅彦は、「正当にこわがることはなかなかむつかしい」と言った。正しく判断し、行動するのは簡単ではないと、頭に入れておこうね。

※月刊ジュニアエラ 2020年8月号より

ジュニアエラ 2020年 08 月号 [雑誌]

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AERA編集部
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