ボードゲームの何が人の心をつかむのか。前出の小野さんがその魅力に気づいたのは、寮で過ごした大学生時代だ。

「カラオケやボウリングは得手不得手がありお金もかかりますが、ボードゲームは一度買えば何度でも遊べます。我を忘れて遊びました」

 時間のかかるゲームや難しいゲームに挑戦するようになり、大学4年生の時、ボードゲーム情報サイト「Table Games in the World」を立ち上げた。年間100、200ものゲームをプレーして、25年になる。

 戦後、世界中でさまざまなボードゲームやカードゲームが生まれ、プレーされてきた。その裏でボードゲーム革命を起こし、通たちに愛好されてきたのが、いわゆる「ドイツゲーム」だ。

「最も成功したドイツゲームとされる『カタン』は、1995年の発売です」(小野さん)

 プレーヤーは無人島「カタン」を開拓、最も繁栄したプレーヤーが勝つという内容で、大ヒットを飛ばした。世界にドイツのボードゲームスタイルが広がるきっかけにもなった。

 寺島由人さん(47)もドイツゲームの虜(とりこ)になった一人だ。学生時代は毎週のように「カタン」をプレーした。やがてブログを開いてボードゲームを考察し、自らボードゲームを制作、販売するまでになった。寺島さんはカタンの衝撃を振り返る。

「誰ひとり脱落せず、全員が最後まで楽しめるように作ってありました」

 先読みの力や戦略性が問われるが、カタンを始めとするドイツゲームの醍醐味(だいごみ)は「対面でコミュニケーションして楽しめるということ。たとえば1人が勝っていたら、他と協力して止めることもできます」(寺島さん)。

 必ず誰かが勝って誰かが負ける。目の前に相手がいて、交流しないと遊べない。

「さいころを振る以上、運の要素もあって、人生と少し似ています。負けないと勝つことの意味もわからない」

 大人が本気で競えるだけではなく、子どもの知育にもボードゲームはひと役買ってくれる。東京都の男性会社員(41)は、家族団欒(だんらん)の時間にボードゲームを楽しんでいる。主に夕食後や週末にプレーするが、自粛期間中は、1日遊んだこともある。

 子どもも遊べるゲームには、語彙(ごい)や論理性、数学的思考力が問われるものも多い。遊ぶうちにそうした能力が向上する。

 ほかにも、意外な効用がある。

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