曲と曲の合間のトークも、メンバー同士のおしゃべりをすぐ横で聞いているような親密感(写真/西槇太一)
曲と曲の合間のトークも、メンバー同士のおしゃべりをすぐ横で聞いているような親密感(写真/西槇太一)
円形に組まれたバンドセットの効果で、見ている人もそこに加わったような感覚になる(写真/西槇太一)
円形に組まれたバンドセットの効果で、見ている人もそこに加わったような感覚になる(写真/西槇太一)

 2020年7月12日に、星野源は渋谷クラブクアトロにて収録したライブ「Gen Hoshino’s 10th Anniversary Concert “Gratitude”」 を配信した。ソロデビュー10周年を記念したこの日のステージは、彼にとって初の配信ライブである。とはいえ彼は、配信という手法によって通常のライブをなぞるようなことはしなかった。事実、曲間のMCで彼が言ったのはこういったことだ。

【写真】星野源配信ライブ、別カットはこちら!

「(通常の)ライブの代わりにライブっぽい配信をやるのではなく、(中略)距離が近いライブをやっていこう、と」

 つまり、この配信ライブで彼が意図し、また生みだそうとしたものとは、通常のライブにおいてオーディエンスが体感することのできる、それ以上の温かさや心地よさや親密さだった。

 それはまず彼やバンドメンバーの会場での位置取りに明らかだった。普段はオールスタンディング仕様の客席フロアに楽器や照明機材を多数持ちこみ、彼らは中心に向かって円を描くようにして陣形を組んだ。そしてその日限りの円形ステージを客席に作りあげた。互いに顔を見合わせ、その息づかいを近くに感じながら響かせる音。そこには自然とぬくもりや、一点に向けて湧きたつ、穏やかな熱気がこもった。

 1曲目は2018年にリリースした最新アルバムのタイトル曲「Pop Virus」。続いて2015年の前作アルバム「YELLOW DANCER」から「地獄でなぜ悪い」。「YELLOW DANCER」や「POP VIRUS」、あるいは2019年のEP「Same Thing」を中心とした選曲に交じり、近年のライブではあまり聴くことのなかった2011年の2ndアルバム「エピソード」収録の「湯気」や「ステップ」といった名曲が、この日セレクトされていたのがうれしい。

 演奏は、視聴者に楽しんでもらうことはもちろん意識しただろうが、第一に彼ら自身が楽しむためのものとして聴こえた。なによりそう感じさせたのが、例えば「うちで踊ろう」におけるバンドアンサンブルだ。インスタグラムでの公開と、有名無名を問わない大勢の人たちからのコラボレーション投稿を経て、その後バンドメンバーのリモート演奏をミックスしたかたちで「うちで踊ろう(Potluck Mix)」が発表されたが、考えてみれば、彼らが一堂に会して演奏を披露するのはこのときが初めてだった。

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「どんどん時間は過ぎてゆくけれど…」