書く仕事が助けてくれました。文章もなかなか書けず、締め切り直前まで毎回呻吟(しんぎん)していたのですが、これが良いリハビリになり、次第に曲も書けるようになってきたんです。2016年頃、ミュージシャンとして死にかけていた尾崎世界観を、文章を書く尾崎世界観が助けてくれたように、あれからコツコツ物を書いてきた尾崎世界観が、コロナ禍のミュージシャンとしての尾崎世界観を助けてくれた。もし自分に音楽しかなかったら、世に出られない焦りばかりが募って、表現者として死んでいたかもしれません。それほど、表現者にとっては苦しい期間だったと思います。

──コロナの影響で、バンドとして過去最大規模となる10周年のツアーが中止になってしまいましたね。

 最初はどうすれば開催できるかを考えていたけれど、ある段階で、覚悟を決めて諦めるタイミングがありました。難しい決断でしたね。でも、そもそも自分は、ライブをやることに対して無条件に肯定的なわけではありません。慢性的な病気のこともあり、毎回非常に大きな精神的・身体的ストレスや不安、恐怖の中でやっていたから、正直、ライブができないことで少しだけ解放された弱い自分もいたんです。情けないことなんですけど。

 でも、その感覚も時間が経つにつれて少しずつ変わってきて、今度は「本当にもう一度ライブができるようになるのだろうか」という恐怖が芽生えてきたんです。気持ちが切れた後、どのようにまた気持ちをつくっていくかは今後の課題かもしれません。

──ファンのみなさんの期待と落胆も大きかったように感じます。

 このツアーがクリープハイプにとってどれだけ大事かをずっと伝え続けてきたので、多くのお客さんがそのことを理解してくれていたと思います。こちらが思っていた以上の方々にチケットを買ってもらえていたし、それがすごく嬉しかったんです。自分にとっての希望でした。それを支えにやってきたんです。だからなかなか諦めがつかなかったけど、たまたま、こういう時期に10周年を迎えてしまったのは仕方がないことですね。

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