「クラウドファンディング」は目標金額に到達した際、支援者への「リターン」として様々なギフトが用意される。音楽制作の場合、スペシャルな音源や映像、Tシャツなどのグッズやライブ招待などが一般的だが、彼らはアルバムのブックレットに支援者の名前をクレジットするなど、ファンが一緒に制作していることを実感できるような心配りを忘れない。三船は自粛期間中によく自宅からインスタライブを行っていたが、そこでは演奏したり歌を聴かせたりするだけではなく、積極的にファンと交流もしてきた。「みんな元気?」「どうしてるの?」という何げない会話だけではなく、ライブで販売するグッズのアイデアを相談するような場面もあり、誰かの何げない一言で「あ、それ採用!」と決まることもしばしば。ファンの側にはスタッフさながらに彼らの活動を支えている手応えが生まれる。

 どんなアーティストでも長く活動しているとファンとの信頼関係が生まれる。こうしたファンとのつながりはもはや、インターネット時代には当たり前のことかもしれない。実際、海外のアーティストたちはビッグネームであっても柔軟にSNSを利用しながらリスナーとの関係性を深めている。ROTH BART BARONはそうした部分も海外のモデルケースをお手本にしていると言っていい。

 そんな彼らの「ファンとより一体となった形」を目指す試みは、コロナ禍でも、いや、コロナ禍だからこそ盛んだ。先週末にはニュー・アルバムを今年10月に、リリースするとアナウンスしたばかりだ。加えて、なんとライブ・ツアー全公演を「観客有り+ライブ・ストリーミング」で実現するための「クラウドファンディング」を立ち上げた。具体的には、全国各地のオーディエンスが全公演を一緒に体験できるというもので、映像制作会社の全面協力を得て、クオリティーの高い有料映像配信システムを確保。日本全国にある様々な会場の個性を生かすようなカメラワークも考えていくという。最終的にはツアー中のバンドの変化や成長のプロセスが、クルーさながらに味わえる、家にいながらにして全国に帯同できるVRライブ・ツアーというイメージだろうか。

 目標金額達成時の「リターン」のプランもユニークだ。ツアー全14会場のライブ・ストリーミング・チケットのセットがもらえるプラン、全会場のライブ音源や映像がダウンロードできるプラン、三船雅也との写真ワークショップに参加できるプラン、はたまたROTH BART BARONのライブ・プロデュース権など様々だ。

 リスナーは生で思い切りライブを楽しめず、作り手も音源制作が思うようにならない今、我々は音楽をどう楽しめばいいのか。ROTH BART BARONはその回答の一つを今こそ提案しているのかもしれない。(文/岡村詩野)

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岡村詩野

岡村詩野

岡村詩野(おかむら・しの)/1967年、東京都生まれ。音楽評論家。音楽メディア『TURN』編集長/プロデューサー。「ミュージック・マガジン」「VOGUE NIPPON」など多数のメディアで執筆中。京都精華大学非常勤講師、ラジオ番組「Imaginary Line」(FM京都)パーソナリティー、音楽ライター講座(オトトイの学校)講師も務める

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