寺脇研(てらわき・けん)/1952年福岡市生まれ。映画評論家、映画プロデューサー。東京大学卒業後、文科省に入省。著書に『新編・ロマンポルノの時代』(光文社知恵の森文庫)ほか多数。9月からラピュタ阿佐ケ谷で本書でも取り上げている「昭和アイドル映画」36本を上映予定(撮影/写真部・加藤夏子)
寺脇研(てらわき・けん)/1952年福岡市生まれ。映画評論家、映画プロデューサー。東京大学卒業後、文科省に入省。著書に『新編・ロマンポルノの時代』(光文社知恵の森文庫)ほか多数。9月からラピュタ阿佐ケ谷で本書でも取り上げている「昭和アイドル映画」36本を上映予定(撮影/写真部・加藤夏子)

 AERAで連載中の「この人この本」では、いま読んでおくべき一冊を取り上げ、そこに込めた思いや舞台裏を著者にインタビュー。「書店員さんオススメの一冊」では、売り場を預かる各書店の担当者がイチオシの作品を挙げています。

 寺脇研さんによる『昭和アイドル映画の時代』は、歌謡御三家、グループサウンズ、内藤洋子、酒井和歌子、百恵・友和、薬師丸ひろ子、たのきんなど、60~80年代に制作された青春アイドル映画に自分史を重ねて論じた大衆娯楽映画論。この本の著者で映画評論家の寺脇さんに、同著にかける思いを聞いた。

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<68年春。15歳、高校に入りたてのぼくにとって、それはまさに“めぐりあい”だった。映画が、単なる娯楽ではなく、観ている自分の生き方にまでかかわってくる。そんな経験は初めてのことだった。銀幕の中に、ひとつの作品世界が組立てられ、そこで青春を過ごす若者と少女の姿が、カタルシスの対象に止まらず、身に迫って感じられたのだ。若者・黒沢年男、少女・酒井和歌子。恩地日出夫『めぐりあい』だ>(第5章「酒井和歌子の時代」から)

 映画少年だった寺脇研さん(67)は高校時代に年間100本以上、日本映画を観ていた。高校2年の時(1970年)、雑誌「キネマ旬報」に投稿した文章が採用され6年を経てプロの映画評論家へ。本書は寺脇さんが観続けた日本映画のなかから60~80年代にかけて製作されたアイドル映画を網羅した、画期的な日本映画史であり昭和アイドル年代記である。

「ミーハーって言葉、死語かもしれませんが、アイドル映画はミーハー映画とも呼ばれていたんです。白井佳夫さん(当時のキネ旬編集長)が私を起用したのは、評論家が飛ばしてしまうようなマイナーな娯楽映画をよく観ていたこともありますが、それまでの日本映画の権威というものに対するアンチテーゼとしてニューウェーブと名付けた映画に対する肩入れの気持ちが大きかったと思いますね」

 冒頭の文章は23歳の時にキネ旬に書かれた文章の再録だが、本書の醍醐味は寺脇さんの若き頃の文章が織り込まれていることで、その当時の心情とともに同時代の気分が伝わってくる。特に同世代でもある三浦友和について論じた文章(第13章「同い年の青春映画スター・三浦友和」)は力が入る。

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