酒類販売のカクヤスによると、5月の売上高は業務用では前年同月比75.9%減だったが、家庭用は45.9%増。炭酸水など、アルコールを割るための飲料の販売も増加しており、「家飲み・巣ごもり需要」が続いていると見ている。

「自宅飲みの安心感から、飲酒開始時間が早まり問題飲酒に移行しやすくなってしまう。それが続けば、今後、アルコール依存症に移行する可能性が考えられます」

 こう言うのは、アルコール依存症ケアを長年行う「大船榎本クリニック」精神保健福祉部長の斉藤章佳さん(精神保健福祉士・社会福祉士)だ。

「問題飲酒」という言葉に、自分の飲み方はまだまだ大丈夫、とかえって安心した人もいるだろう。しかし問題飲酒とは、酒飲みなら覚えがある行動を指す。飲んだ後、「転んでケガをする」「電車を乗り過ごす」「財布やスマホなど物をなくす」「どうやって帰ったか覚えていない」。いずれも「酔っ払いあるある」として笑い話にさえなりそうだが、専門家から見れば、立派な危険信号だ。

「お酒を飲むことで何かを『失う』こと自体が問題飲酒です。一番わかりやすいのが記憶を失うブラックアウト。お酒による記憶の喪失、経済的・身体的損失、信頼関係を失うなどを繰り返しているなら、アルコール依存症やその予備軍を疑った方がいい」(斉藤さん)

 10回に1回問題飲酒だったのが、5回に1回、3回に1回となり、そのうち飲むたびに問題飲酒を起こすようになる。そして、さらに深刻なステージに移り、お酒の量を減らしたり飲まなかったりすると、手の震え、大量の汗、不眠、うつ、幻覚や幻聴といった離脱症状が出るため、それを抑えるためにさらに大量に飲酒するという悪循環に陥ってしまう。やがて連続飲酒となり、医療機関や警察の介入が必要になる。問題飲酒をできるだけ早い段階で食い止めなければ、だれでもこうなる可能性はある。

 日本は海外に比べて、飲酒の失敗に寛大だという傾向もある。加えて、近年、アルコール依存症への「入り口」がより身近になってきている。斉藤さんらアルコール依存症問題に取り組む専門家が危機感を募らせているのが、アルコール度数9度以上の「ストロング系缶チューハイ」によるアルコール依存症だ。

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