「地元としては党本部から刺客まで送られているのですから、河井夫妻の辞職に伴う補欠選挙では、人選の段階から主導権を握って欲しい。ここで力を発揮し、存在感を示さなければ総理総裁の道はない。ただ、それよりも先に解散となれば、それはまた別の話です」

 岸田氏とは対照的に、首相の座への野心をむき出しにしているのが石破茂・元防衛相だ。河井事件についても積極的にメディアで発言をし、安倍首相ら執行部の説明責任を求めている。

 しかし、石破氏に譲るくらいであれば、4選を目指して次の総裁選に出馬することも辞さないのではないかと安倍首相に近い自民党議員は語る。

「安倍首相にしても、現実問題として党内に総理の座を禅譲する相手がいないのは頭が痛い。そうなると、かつて郵政解散に打って出た小泉純一郎元首相のように、解散した上でそれなりの成果を残し、任期を全うするという方法はある。けれども、今の段階で郵政民営化のような奇策があるわけでもなく、コロナの第2波の危機感もあるなか解散のタイミングを見極めるのは非常に難しく、思案のしどころだと思います」

 実際、相次ぐ首相自身の疑惑に河井夫妻の事件が重なり、安倍内閣の支持率は急降下している。岸田派の会合が行われる数日前、自民党の党本部で行われた総務会では、村上誠一郎・元行革相が執行部に対し世間の厳しい声をこう訴え、怒号が飛び交う一幕があった。

「1億5千万円について、安倍首相がちゃんと説明して責任とってけじめをつけないと」

 永田町に吹く解散風が、どちらの方向に向いて風速を強めるか。いずれにしても、河井事件の進展から目が離せない。(編集部・中原一歩)

AERA 2020年7月13日号より抜粋