ただ、振り返ると、「家族が僕を愛してくれて、言葉掛けや行動をすべて変えて協力してくれた」。事前に「今から掃除機かけるよ」と教えてもらうと心の準備ができ、パニックを起こさないでいられた。音楽が好きになると、親は毎週図書館に連れて行ってくれ、CDを借りてさまざまな音楽を聴いた。そこで出合ったのがラップだった。

「うまくしゃべれなくても、このラップでうまくやってきたし、いろんな生き方がある。こんな人間もいるんだと知ってほしい」

 6歳の当事者の男の子と両親が登場するシーンでは、「ゆっくりだけど、みんな学んでいる。」というコピーが映し出される。CMのプロデューサーを務めた東海テレビの桑山知之さん(30)は言う。

「はじめは『ゆっくりだけどちゃんと学んでいる』というコピーだったんですが、僕が変えようと提案しました。子どもだけじゃなくて、周りも一緒に成長しているから」

 CMの中で母親は「対応の方法もわからず間違った声かけをしていたけど、(発達障害を)勉強するうちに、彼のわかりやすいように対応できるようになってきたのかな」と語っている。

「障害があるからといって、助けるとか手を差し伸べるのではなくて、人と接するときに相手を知って相手に合わせることって当然のこと。そこを伝えたかった」(桑山さん)

 片づけが苦手で離婚した注意欠如・多動性障害(ADHD)の女性もCMに出演。女性の「パッと見、フツウに見えるからわかってもらえない」というせりふの通り、発達障害は見た目でわかりにくく理解されにくい。

「映像化しづらくてテレビでもあまり取り上げられてこなかったテーマだけど、だからこそ伝えたかった。最後のラップや聴覚過敏の男の子が周囲の音に襲われる演出などは、テレビのドキュメンタリーではやらない手法。広告的な視点があったから、生まれた動画だと思います」(桑山さん)

(編集部・深澤友紀)

AERA 2020年7月13日号