小池知事の視線は知事選のもっと先、自分の政治生命に向けられていると見るのは、ジャーナリストで流通経済大学教授の龍崎孝さん(59)だ。

「小池さんの政治的な立ち居振る舞いの特徴は、『政治リーダーとしての自分をどう際立たせるか』。長い目で見た自分の政治目標のために、コロナをむしろ好機ととらえて利用している」

 3月24日に東京五輪延期が決まった途端、ロックダウン云々と大騒ぎ。緊急事態宣言が出るとわかった上で直前に都独自の判断を示し、西村康稔・新型コロナウイルス対策担当相と大立ち回りを演じ、「(都知事は)社長かと思ったら中間管理職」と捨て台詞を吐く。何かしら政治的なエポックの場面で「際立つ行動」をしてみせる。龍崎さんはこう読み解く。

「いま中央政界に政治的な空白、次の自民党を背負う人材不足があるという状況を、小池さんは冷静に分析していると思います。もし東京五輪が中止になれば、自分が知事でいる意味はないと考えるかもしれない。『1ランクアップして再び国政へ』が頭にあるのでは。自民党も小池さんに対して一枚岩ではないが、『選挙に勝てる』点で『出戻り小池』は選択肢になりうる」

 その目標のためにも、「なぜアラートを出さないの」ととやかく言われるのは小池知事にとって迷惑このうえない。だからその障害を取り除いた。

「本当なら東京アラートの効果や科学的な根拠を総括した上で修正を加えるべき。それをせず、数値を抜いた新しいものを出してきた荒っぽさ。小池さん特有のやり方だと感じます」

 数値目標は、「達してしまったら何かしなきゃいけない」厄介なもの。だから今回に限らず、政治家も役人も嫌がる。その意味で「役人もグル」だったのではと、龍崎さんは指摘する。(編集部・小長光哲郎)

※AERA 2020年7月13日号より抜粋

AERA 2020年7月13日号より抜粋

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小長光哲郎

小長光哲郎

ライター/AERA編集部 1966年、福岡県北九州市生まれ。月刊誌などの編集者を経て、2019年よりAERA編集部

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