新たな指標について会見で説明する小池百合子東京都知事。休業の再要請の可能性については「一つの考えとしてある」と含みを持たせた/6月30日 (c)朝日新聞社
新たな指標について会見で説明する小池百合子東京都知事。休業の再要請の可能性については「一つの考えとしてある」と含みを持たせた/6月30日 (c)朝日新聞社
AERA 2020年7月13日号より
AERA 2020年7月13日号より

 知事選まっただ中だった小池百合子知事が、休業再要請などの数値基準を撤廃した。感染拡大を覆い隠して自身の価値を高め、狙うのはさらに上の「椅子」だ。AERA 2020年7月13日号では、撤廃の裏にある小池知事の思惑に迫った。

【図を見る】都内の感染拡大は「休業再要請」レベルに?

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「東京アラートがキンコンカンと鳴りますよ」

 5月15日、なぜかご機嫌でそう語った小池百合子東京都知事。先月2日には実際にレインボーブリッジを真っ赤に染めてアラートを鳴らしたものの、もう鳴ることはないらしい。

 都内の感染者は週平均で6月半ばからは20人を、同月末からは50人を上回る高止まりが続き、東京アラートはおろか休業要請の基準を超える日もある。「なぜアラートを出さないのか」と疑問が出る中、都は動かない。それどころか数値基準を無くし、東京アラートの運用を取りやめるというのだ。

 これまでの指標では、「1日あたりの新たな感染者が20人以上」「感染経路不明の割合が50%以上」「週単位の感染者増加比が1以上」なら東京アラートを出し、「50人以上」「増加比2以上」なら休業を再要請、との数値基準を示していた。だが都は6月30日、感染状況をモニタリング(監視)するための7項目を示す一方、数値目標を削除した。

 基準値を超えたのに、小池知事が東京アラートや休業要請を出さなかった理由は何か。日本大学教授(政治学)の岩井奉信さん(70)は、背景にあるものとして都の財政が底をついている現状を挙げる。

「都の貯金である財政調整基金は2019年度には9032億円あったのが、20年度はコロナ対策で約9割減って807億円。もう休業要請は出せない。そんな事情は透けて見えます」

 そしてもう一つ。小池知事はこの間、知事選のまっただ中だった。

「『知事選ありき』で経済を活性化し、アピールしたかったのですが、感染者増は計算外。基準に従いアラートを出せば、出馬表明前日の11日にいったん解除した自分の判断を誤りだと認めることになる。選挙を前に汚点は作りたくない。覆い隠す意味でも新基準作りを進めたのでは」(岩井さん)

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小長光哲郎

小長光哲郎

ライター/AERA編集部 1966年、福岡県北九州市生まれ。月刊誌などの編集者を経て、2019年よりAERA編集部

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