自分に与えられている分の責任は全うしているつもりだ。しかしひとりで行っている仕事ではないのだから、全責任を負うのは不可能だ。また謝罪や追加作業をして成果が出るならするが、この場合は休養や時間、人員を増やしたほうが成果につながる、と。

 夫婦でこんなにも価値観が違いました――という話なのですが、これは日米の国民性の違いでもあるかもしれないと思いました。夫の思考が、実にアメリカ人らしいのです。端的にいうと、他責型、さらに成果重視という考え方です。

 アメリカに暮らしていると、ときどきアメリカ人の他責ぶりに呆れることがあります。彼ら、本当に責任転嫁が上手なんですもん。遅刻するのは渋滞のせい、太っているのは遺伝のせい、郵便物が届かないのは夏が近いから――なんて具合です。もちろん全員が全員そうではありませんが。なんでも自己責任、自分が悪くなくてもとりあえず頭を下げろと教えられる日本人からしたら、羨ましさすら感じます。

 また、学校の授業や会社のミーティングで進行役が遅刻してきたとしましょう。彼らは平然とした顔でこう言うのです。「みんな、時間が押してるから巻きでいこうね!」と。時間が押してるのは遅れたあなたのせいでしょうと日本人の私は突っ込みたくなるのですが、実は成果重視でいくと、このやり方のほうが理に叶っているんですよね。「遅れて申し訳ない」「いえ、それほど遅れてませんよ」「いやいや、情けない限りだ」「いえいえいえ、大丈夫ですって……」のような応酬を交わすより、スッパリ「巻きで!」と進めたほうが効率がいい。日本人は謝罪の応酬に時間をかけますが、それは成果よりも過程を大切にしているからでしょう。

 日本とアメリカ、どちらがよくてどちらがダメというわけではありません。状況によって良し悪しは変わるでしょう。ただ、失敗するたびに自分はなんてダメな人間なんだと落ち込み、謝罪や残業で身を削っている私のような人がいたら、ちょっと立ち止まって考えてみてもいいのではないかと思うのです。その自責、本当に必要? その努力(と思い込んでいる努力)、成果につながっている? と。こういった思考の癖は子どもにも移ってしまいがちですから。たまには心の中にアメリカ人を召喚して、「遅刻したけど、巻きでいこうね!」と宣言してみてもいいかもしれません。日本社会ではひんしゅくを買うかもしれませんけどね。

◯大井美紗子
おおい・みさこ/アメリカ在住ライター。1986年長野県生まれ。海外書き人クラブ会員。大阪大学文学部卒業後、出版社で育児書の編集者を務める。渡米を機に独立し、日経DUALやサライ.jp、ジュニアエラなどでアメリカの生活文化に関する記事を執筆している。2016年に第1子を日本で、19年に第2子をアメリカで出産。ツイッター:@misakohi

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大井美紗子

大井美紗子(おおい・みさこ)/ライター・翻訳業。1986年長野県生まれ。大阪大学文学部英米文学・英語学専攻卒業後、書籍編集者を経てフリーに。アメリカで約5年暮らし、最近、日本に帰国。娘、息子、夫と東京在住。ツイッター:@misakohi

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