松居大悟(まつい・だいご)/1985年、福岡県生まれ。慶應義塾大学卒業。映画監督、劇団「ゴジゲン」主宰。近作に「君が君で君だ」(2018年)ほか。「#ハンド全力」が7月31日公開(撮影/写真部・小黒冴夏)
松居大悟(まつい・だいご)/1985年、福岡県生まれ。慶應義塾大学卒業。映画監督、劇団「ゴジゲン」主宰。近作に「君が君で君だ」(2018年)ほか。「#ハンド全力」が7月31日公開(撮影/写真部・小黒冴夏)

 AERAで連載中の「この人この本」では、いま読んでおくべき一冊を取り上げ、そこに込めた思いや舞台裏を著者にインタビュー。「書店員さんオススメの一冊」では、売り場を預かる各書店の担当者がイチオシの作品を挙げています。

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 映画「アフロ田中」「アズミ・ハルコは行方不明」などの監督として知られる、松居大悟さんの初小説。劇団を主宰する24歳のタケシが、疎遠だった父の余命宣告で家族、自分と向き合っていくストーリーだ。著者である松居さんに、同著に込めた思いを聞いた。

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 劇団主宰、俳優、映画監督として活躍する松居大悟さん(34)が初小説を上梓した。テーマは「家族」。映画でも演劇でも家族を描くことを避けてきた。なぜいま、小説で?

「去年が父親の七回忌だったんです。やっぱり一度、家族というものに向き合わなきゃいけないな、と。僕はうちの家族は普通と違うとずっと感じてきた。演劇や映画で家族を描こうとすると、まず自分の家族観をキャストやスタッフと共有しなきゃならない。そこで『お前んち、ヘンだよ』と言われるのがいやだったんです。でも小説ならば、自分だけで作ることができる」

 主人公タケシは福岡県出身。両親の離婚後、荒れる兄におびえながら暗黒の10代を過ごした彼は、大学で演劇に出合い劇団を主宰する。そんなある日、兄から「父が余命数カ月だ」と知らせが届く。タケシは限りなく作者に重なるが、

「決して自伝ではないんです。自分が育ってきた景色、抱いた感覚に限りなく近いところから始めようとは思いましたが、僕はタケシのように素直に人の影響を受けていけるようなヤツじゃないし(笑)」

 父親に言えなかったこと、あのとき、こうできていたら……。そんな思いを主人公に込めた。

 映画や演劇を作るときはどうしても「楽しませなきゃ!」が先に立つ。小説はそれを考えず、自由で楽しかった。半面、難しさもあった。

「役者にゆだねられる部分がなく表情や照明で表現できない。編集者から『もっとタケシの気持ちを書き込んでください』と言われたときはしんどかったですね。『自分でもわからないよ!』って(笑)」

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