「週末に自宅で、前面展望の動画を見ながら食べています。窓際にソファをクロスシートのように置いて、その地域を旅したときのことを思い浮かべながら食べるのが楽しいんです」

 牛の顔をかたどったふたを開けると童謡「故郷(ふるさと)」のメロディーが流れる「モー太郎弁当」で有名な「駅弁のあら竹」(三重県松阪市)も、この春から通販に力を入れ始めた。紀勢本線・松阪駅に店を構え、今年で創業125周年を迎える老舗だ。6代目社長・新竹浩子さんは、SNSで地元の魅力を発信し、「ぴーちゃん」の愛称で多くの鉄道ファンから愛されている。

「通販を始めたのは5年ほど前から。ホームページの片隅で細々とやっていて、注文は月に数件でした。でも、緊急事態宣言が出された時に、何人かのお客さまから『お取り寄せはできますか?』と聞かれ、それをきっかけに通販サイトを目立つようにリニューアルしたら、利用してくださる方がグッと増えたんです」(新竹さん)

 看板商品である全国初の牛肉弁当「元祖特撰牛肉弁当」を始め、部位を厳選した黒毛和牛を秘伝のタレで調理する。新竹さんのこだわりはそれだけではない。通販の弁当が入った段ボール箱を開けると、オリジナルキャラクター、モー太郎のイラストが広がるようにセットし、購入者へ感謝の気持ちを書き込んだ鉄道写真を添える。鉄道写真は、通販の注文時に購入者がコメント欄に書いた内容などを参考にして選ぶ。

「例えば、近鉄好きの方からの注文だったら近鉄の『しまかぜ』の写真にしたり、お一人ずつに合わせて選びます。あと、私は“エア松阪”と呼んでいるんですけど、松阪に来られない方たちにもお弁当を食べながら想像で楽しんでいただけるように、観光案内もたくさん同封しています。お弁当の揺れ防止にもなって一石二鳥なんです(笑)」(同)

 4月以降、松阪駅売店での売り上げは9割減、1日に2個しか売れない日もあった。しかし、新竹さんは前を向く。

「お客さまがうちの通販のお弁当を楽しんでいる様子をSNSにアップしてくださるんです。最近、一番感動したのは鉄道愛好家のご夫婦。奥さまが駅弁の立ち売りの格好をして、うちのお弁当をお盆の上に並べて、『ぴーちゃん、こんなことしたよ』とメッセージをくださった。なんてうれしい励ましなんだろう!って」

(編集部・藤井直樹)

AERA 2020年7月6日号より抜粋