車窓を眺めながら土地の食をパクつく楽しみ。旅のお供、駅弁の通販対応が少しずつ広がっている (c)朝日新聞社
車窓を眺めながら土地の食をパクつく楽しみ。旅のお供、駅弁の通販対応が少しずつ広がっている (c)朝日新聞社
「駅弁のあら竹」6代目社長・新竹浩子さん (c)朝日新聞社
「駅弁のあら竹」6代目社長・新竹浩子さん (c)朝日新聞社

 旅情をそそる駅弁を、お取り寄せして自宅で味わう──。そんな楽しみ方がいま、じわじわと広がっている。背景には、コロナ禍で直面した苦境と、それを乗り越えようとする駅弁各社の奮闘があった。AERA2020年7月6日号から。

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 箱いっぱいに広がる海の幸に山の幸。鉄道旅のお供として親しまれてきた駅弁がいま、危機的な状況に陥っている。新型コロナウイルスの影響による鉄道利用客の減少に伴い、駅構内で販売する駅弁屋の売り上げも大幅に落ち込んだのだ。JR東海によると、6月1日から9日までの東海道新幹線の利用客数は前年同期比78%減。緊急事態宣言の解除後は徐々に増えているものの、いまだ回復の動きは鈍いという。

 旅を彩る駅弁に、思い出のある人も多いだろう。幼い頃の家族旅行で、気の置けない友人との旅行で、出張で……。車窓に広がる景色を眺めつつ、ホームの売店で買い求めた弁当を膝の上にのせ、心地よい揺れを感じながら味わう。その土地ならではの食材がぎっしり詰まった駅弁は、普段の食事とは異なる特別な体験だ。

「駅弁って“想像力のお弁当”だと思うんですよ。まず掛け紙の絵を見て『中身はどうなっているんだろう?』と想像して、ふたを開けて『おー、そうきたか!』って。ラジオも“想像するメディア”と言われますが、駅弁との共通点を感じますね」

 そう語るのは、ラジオ番組の放送作家であり、駅弁ライターである望月崇史さん(44)。番組をきっかけに始めた全国の駅弁食べ歩き歴は17年、実食した数はなんと5千個におよぶ。2002年から、毎日一つの駅弁を紹介するウェブ連載を継続中だ。

 4月からの外出自粛による巣ごもり生活で、望月さんが新たに始めたことがある。駅弁のお取り寄せだ。

「実はお取り寄せできる駅弁屋が全国各地にあるんです。いま、メディアでは、『駅弁業界は苦しい』というメッセージばかり発信されていますが、こういう時だからこそ通販を始めたり、新しい商品を出したりしている会社もあって。鉄道ファンを中心に、苦境に立たされている駅弁屋を支えようと、応援の輪が広がっています」(望月さん)

 都内在住の会社員・伊東真さん(36)は、ローカル線をめぐるのが趣味の“乗り鉄”だ。コロナ禍のいまは、駅弁と共に自宅で“旅”を楽しんでいる。

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