王舟さん(写真提供:スペースシャワーネットワーク)
王舟さん(写真提供:スペースシャワーネットワーク)
「Pulchra Ondo」のジャケット
「Pulchra Ondo」のジャケット

 新型コロナウイルス終息のめどが依然として立たない中、音楽の現場も厳しい状況が続いている。毎年恒例の「フジロックフェスティバル」も先ごろ、来年に延期されるとの発表があった。海外に目を向けても、大型フェスやツアーは軒並みキャンセル。ライブハウスの状況はさらに深刻で、人数制限と配信を前提にした公演の機会は増えてきたものの、収益には当然、結びつきにくい。東京でもとうとう閉店に追い込まれる店が出始めている。

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 アーティストたちの多くは、来年以降の活動の見通しが立っていない。来年どころか、1カ月後、半月後のめども立っていない。そうした中、「せめて曲だけでも」とひたむきに制作に邁進するアーティストは少なくない。また、「サウンドクラウド」や「バンドキャンプ」といった音楽ファイル共有サービス、あるいは「YouTube」などの動画投稿サイトを利用して、楽曲を発表するアーティストも増えている。こうしたことは、ままならない状況に対するミュージシャンたちのささやかな抵抗にも思える。

 そんなステイホームを強いられる環境下で、ニュー・アルバム『Pulchra Ondo(プルクラ オンド)』を6月17日に、急きょ発表したアーティストがいる。東京を拠点に活動する男性シンガー・ソングライターの「王舟(おうしゅう)」だ。彼はこのアルバムを「日記をしたためるように制作した」という。

 王舟は中国・上海生まれ。8歳の時に両親の都合で来日し、それから20年以上、日本で暮らしている。2010年代に入ると、音楽活動を始めていた彼の存在が徐々に注目されるようになった。CDR作品のリリースを経て14年、正式なファースト・アルバム『Wang』でデビュー。繊細で滑らかなリフを奏でるギターと、日本語と英語をミックスさせたようなセンチメンタルで独特な歌詞、それにメランコリックで甘美なメロディー。これらで構成される彼の作品の奥行きに引き寄せられるミュージシャンは後を絶たない。いつのまにか彼の周囲には多くの仲間が集うことになった。

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岡村詩野

岡村詩野

岡村詩野(おかむら・しの)/1967年、東京都生まれ。音楽評論家。音楽メディア『TURN』編集長/プロデューサー。「ミュージック・マガジン」「VOGUE NIPPON」など多数のメディアで執筆中。京都精華大学非常勤講師、ラジオ番組「Imaginary Line」(FM京都)パーソナリティー、音楽ライター講座(オトトイの学校)講師も務める

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