実兄の金正恩氏のサポートに徹する金与正氏。「ほほ笑み外交」からの豹変に、韓国社会にも驚きが広がったという(写真:gettyimages)
実兄の金正恩氏のサポートに徹する金与正氏。「ほほ笑み外交」からの豹変に、韓国社会にも驚きが広がったという(写真:gettyimages)
AERA 2020年7月6日号より
AERA 2020年7月6日号より

 金正恩氏の実妹、金与正氏が存在感を強めている。韓国を責め立てる陣頭指揮を執り、苛烈な発言でも注目されているが、一体どんな人物なのか。AERA 2020年7月6日号では、その人物像に迫った。

【金一族の家系図はこちら】

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 北朝鮮が16日、開城(ケソン)にある南北共同連絡事務所を爆破した。北朝鮮軍は南北軍事境界線近くでの軍事演習の実施などを予告した。韓国を激しく責め立てる陣頭指揮に立つのが、金正恩(キムジョンウン)朝鮮労働党委員長の実妹、金与正(キムヨジョン)党第1副部長だ。脱北者を「家の中の汚物」「くず」とこきおろした。金与正氏とはどういう人物なのか。金与正氏が苛烈な言葉を使って前面に立つ背景には何があるのだろうか。

 韓国統一省の「2020年版北韓主要人物情報」によれば、与正氏は1988年生まれ。正恩氏と同じく金正日(キムジョンイル)総書記と在日朝鮮人だった高英姫(コヨンヒ)氏との間に誕生。2014年に公式な活動を始めるまでは、金日成(キムイルソン)総合大学を卒業したという程度の情報しかない。

 18年2月、平昌冬季五輪開会式に出席するため、初めて訪韓した。当時、与正氏と面会した韓国政府関係者らが受けた印象は「頭の回転が速くて、礼儀正しい。その一方、自分がロイヤルファミリーの一員であることを十分意識した、強い性格の持ち主」というものだった。

 金与正氏はテレビカメラがあってもなくても、形式的な団長だった金永南(キムヨンナム)最高人民会議常任委員長(当時)を立てていた。訪れた韓国大統領府の廊下で、金永南氏が「お先にどうぞ」と先頭に立つよう促しても、金与正氏は笑顔で受け流していたという。与正氏は、ボディーガードや随行員にも優しい言葉をかける姿が目撃されている。

 五輪開会式では、文在寅(ムンジェイン)大統領夫妻と笑顔であいさつを交わす一方、同席したペンス米副大統領や安倍晋三首相には視線すら向けず、一切無視。韓国大統領府で文在寅大統領と会談した際は、金正恩氏の親書をさりげなくテーブルの上に置き、誰が事実上の団長なのかを示した。与正氏は会談中、視線を手元に落とすことなく、前方を見据えていた。平壌と連絡を取り合う北朝鮮の元政府関係者らによれば、与正氏は怜悧(れいり)で政治に強い関心を持った人物だという。

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