アルモドバルの分身である主人公サルバドールは、40年来の付き合いとなるアントニオ・バンデラス、若き日の母親役を長年の友人ペネロペ・クルスが演じている。バンデラスは、この映画でカンヌ国際映画祭で男優賞を受賞した。

「観客が共感するのは俳優。私が監督になったのも俳優との仕事が楽しかったから。アントニオは、好きなようにしてくれていい、と私に身を委ねてくれたんだ」

 80年代、デビューするや否や強烈な色彩やアート感覚で脚光を浴び、カルト的な人気を誇った。70代になり、人生も作品も円熟期を迎えている。

「80年代当時、ドラッグや性表現などは、カトリックのスペインでは難しかった。でも、自分の作りたい映画を作るという野心により反発を無視できた。最近、あんな映画はもうスペインで作れない、と言われる。当時より極右化しつつある。トランプはヨーロッパにも影響を与えているよ」

◎「ペイン・アンド・グローリー」
映画監督を演じるのは、アルモドバル監督作でデビューしたアントニオ・バンデラス。公開中

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 1982年に公開されたアルモドバル監督の長編第2作。人工授精の権威を父にもつ、ロック歌手でニンフォマニアの女性セクシリアは、ライブで出会った青年リサに一目ぼれする。だが、彼は亡命してきたティラン国の皇太子で、しかもゲイだった。

 自由奔放なセックスライフを送ってきた主人公セクシリアの純愛の行方を描くコメディーだが、悪趣味スレスレのド派手な衣装、原色がまばゆい美術など“アルモドバル印”が凝縮されている。

 セクシリアを演じたのは、アルゼンチン出身のセシリア・ロス。26歳で出演した本作で注目され、以来、アルモドバル映画の常連となり、「オール・アバウト・マイ・マザー」(99年)では息子を事故で亡くした母親の再生の旅路を演じ、ヨーロッパ映画賞を受賞している。また、本作で映画デビューしたのが、アントニオ・バンデラスだ。その後のハリウッドにおけるセクシー路線の色香はまだなく初々しい。監督自身もカメオ出演し、女装姿で歌まで披露している。いまほどにセクシュアルマイノリティーの概念がなかった当時、ゲイカルチャーの申し子となったアルモドバルの原点が垣間見られる。

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発売元・販売元:松竹
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(映画ジャーナリスト・立田敦子)

AERA 2020年6月29日号