永尾がさとみに振られた2話で、あの「カンチ、セックスしよ」が。91年版では永尾の好意をわかったうえで、リカが明るく叫んだ。今回は、おしゃれな恋の駆け引きになっていた。

「失恋に一番効く薬って知ってる?」とリカ。「なんすか」と答える永尾にリカは「セックス」とささやき、こう言う。「カンチ、セックスしよっか」

 きれいで都会的な石橋さんによく似合っている。ついでに書くなら、伊藤さんの今どき男子っぽさも好感度大だ。とがった感じの石橋さんが、丸い感じの伊藤さんを翻弄する。令和の若い男女ってこうだろうなと、そこはすごく説得される。

 かくしてセックスをする2人だが、永尾は揺れに揺れる。その過程にシンクロし、見ている側も揺れに揺れれば切なさになるだろう。が、どうもそうならない。リカに共感しづらいのだ。

 自由な生き方をしようとし、実際そのように振る舞いながら、愛し愛されることを過剰に求める。それがどこから来ているのかがよくわからないから、追いかけられる永尾が気の毒になってくる。さとみを選んだ永尾にやっぱりそうよね、と思っていると、またリカに戻ったり。おいおい、とイラッとしてくる。

 リカで一番わからなかったのが、かつての不倫相手である上司とのランチのシーンだった。2人がそろって刺し身定食を食べる。リカはまず、上司のお皿にしょうゆを差す。

 59歳女子として、不倫はそれぞれの好きになさればいいと思う。が、これは見過ごせない。自分のことは自分でしようよ、お互いに、と思う。これじゃあ、自由になれないじゃんと、リカが少し悲しくなる。

 その点ヒョンビン沼では、女性の堂々としている率がすごく高い。「愛の不時着」のユン・セリは、北に漂着したことで泣いたことは一度もない。賢くたくましく成功した経営者でもある彼女が泣くのは、リ・ジョンヒョクを思う時だけだ。だから、泣くユン・セリがすごく切ない。

 私がいちばん好きだった「東京ラブストーリー」の女子は、さとみと同じ保育園で働く保育士のトキちゃんだった。永尾と三上健一(清原翔)という2人の同級生に振り回されるさとみに、いつもズバッと本音を言う。

 付き合っているのに不実な三上の振る舞いを聞けば、「あの手の男はちゃんとしつけとかないと、後でどえらい目にあうんだからね」と返す。案の定どえらい目にあい、三上と別れたさとみの中に彼への未練を読み取った時は、「忘れちゃったの、どんな思いで別れたか」と釘を刺す。

 トキちゃんが後輩だったら、絶対、ご飯に誘うなあ。見ていてそう思った。トキちゃんは、せっせと婚活パーティーに通っていた。トキちゃんのように賢く可愛い女子の東京ラブストーリーはどんなだろう。(コラムニスト・矢部万紀子

AERA 2020年6月29日号

著者プロフィールを見る
矢部万紀子

矢部万紀子

矢部万紀子(やべまきこ)/1961年三重県生まれ/横浜育ち。コラムニスト。1983年朝日新聞社に入社、宇都宮支局、学芸部を経て「AERA」、経済部、「週刊朝日」に所属。週刊朝日で担当した松本人志著『遺書』『松本』がミリオンセラーに。「AERA」編集長代理、書籍編集部長をつとめ、2011年退社。同年シニア女性誌「いきいき(現「ハルメク」)」編集長に。2017年に(株)ハルメクを退社、フリーに。著書に『朝ドラには働く女子の本音が詰まってる』『美智子さまという奇跡』『雅子さまの笑顔』。

矢部万紀子の記事一覧はこちら