しかし今、世の中は大きく変わろうとしているようだ。私の周りでも、これからどうしていけばよいか考える会話が、いろいろなところでなされている。

 私の義母はアイルランド系アメリカ人の白人だが、最初は自分が買い物をしている店が略奪されている様子をニュースで見てショックを受けていたものの、その後は黒人の人たちがどんなに肩身の狭い思いをして生きているか、息子(私の夫)や私と意見をかわすようになり、理解を深めようとしている。私のライター仲間は白人であるがゆえの「特権」の意味するところを考えながら、内なる白人カルチャーをどう変えていけばいいのか激しく議論している。過去の自分が無意識のうちに差別に加担していなかったか、白人の特権をただ享受するだけではなかったか、公に反省を口にする知り合いもいる。私自身もアフリカ系黒人の歴史をきちんと勉強しようと思い、名門イェール大学の公開レクチャーに申し込んだ。

 ビジネスの世界ではアップルやグーグル、ペイパルなどが、人種差別のない平等な仕組み作りに投資すると発表している。シカゴでは過去に差別的態度をとったビジネスオーナーが厳しく批判され、なかには閉めざるを得なくなった店も出てきている。黒人経営者のビジネスをもっと利用しようという動きもあちこちで起きている。

 黒人コミュニティーや、彼らを支持する多くの人たちの怒りは、警察の暴行や、黒人が受ける過剰な刑罰についてだけではない。彼らが抗議しているのは、みんなが耐えてきた差別や偏見、さらにその経験への白人の意識のなさだ。日本人や日系人を含むアジア系もおそらくその中に入るだろう。

■初めてバッグにナイフを忍ばせ

 一部デモが暴走化した直後、黒人と白人の両方のルーツを持つ友人フェイドラ・シャンテルさんはFacebookで白人の友人に向けてこう訴えた。

「私は人種差別主義者ではないから、と今起きていることを無視しないで、私たちの立場を理解しようとして欲しい」

 彼女は白人が多い裕福なシカゴ郊外で育ち、友人もほとんどが白人だったらしいが、6歳の時に初めて、クラスメイトの男の子に「ニガー」と昔の蔑称で呼ばれたという。中学生の時の親友の家族に、不審そうな目で見られたこともあったそうだ。

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