私がミサイル防衛に関わった自衛隊の高官達に「イージス・アショア導入よりは、艦の搭載弾数を増やす方が合理的では」と言うと、ほぼ例外なく「おっしゃる通り」との反応があった。

 イージス・アショアは当初「1基800億円程度で23年納入」とのふれ込みだったが、日本が導入を決めると1基1340億円に値上がりし、納入は25年度に。要員の訓練経費などを含む米国への支払いは4664億円になった。ミサイルは別売りで1基に定数24発だから48発で約1900億円、一部の用地買収や隊舎築造なども入れると計7千億円程度になりそうだ。米国はルーマニアとポーランドには全額を米国が負担して1基ずつ配備しているが、予算は1基8億ドル(859億円)余だ。

 新型コロナウイルス対策に政府は新たに国債91.1兆円を発行せざるをえず、これは今年度当初予算の防衛費5.3兆円の17年分にあたる。日本も他の諸国も財政危機と経済の低迷に直面し、国防予算は削減され「コロナ軍縮」に向かう公算が大だ。イージス・アショアの配備はまだ本格化していないから、さほど痛みがなく削れる費目だ。

 トランプ大統領は新型コロナの蔓延、失業者の急増、警察官の黒人殺害問題で再選が危ぶまれる情勢だ。日本に「イージス・アショア」を売り込み、貿易赤字削減の一助とすると共に、ハワイ、グアムなどを守る「太平洋の盾」にするという長期的戦略に構ってはいられないのか、河野防衛相の計画停止の発表に反発した様子はない。日本にとって、決断には最善のタイミングだった。地元の反発と財政難で泥沼化しそうな問題から潔く撤退し、本来の防衛省の計画の線に戻したのは勇断と言えよう。(軍事ジャーナリスト・田岡俊次)

AERA 2020年6月29日号