米ハワイ州カウアイ島にあるイージス・アショアの実験施設。1基800億円ほどのはずが、日本が購入を決めると1340億円に値上がりした/2018年1月 (c)朝日新聞社
米ハワイ州カウアイ島にあるイージス・アショアの実験施設。1基800億円ほどのはずが、日本が購入を決めると1340億円に値上がりした/2018年1月 (c)朝日新聞社
イージス・アショア配備計画の停止を発表した河野太郎防衛相。トランプ大統領の苦境を見切った勇断にみえる (c)朝日新聞社
イージス・アショア配備計画の停止を発表した河野太郎防衛相。トランプ大統領の苦境を見切った勇断にみえる (c)朝日新聞社

 河野防衛相が突然、陸上イージスシステムの配備計画停止を打ち出した。トランプ大統領肝いりの高い買い物をやめるには、今がベストタイミングだった。AERA 2020年6月29日号で掲載された記事を紹介する。

【写真】イージス・アショア配備計画の停止を発表した河野太郎防衛相

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 河野太郎防衛相は6月15日、迎撃ミサイルシステム「イージス・アショア」の配備計画の停止を表明した。「北朝鮮の弾道ミサイルに対する防衛網に穴があく」との批判が自民党の一部にあると報じられるが、そもそもこのシステムは自衛隊がほしがっていたものではなかった。

 防衛省は4隻だったイージス艦を8隻に増強して長距離のミサイル防衛に当たらせ、局地防衛は「パトリオット・PAC3」(発射機34輌)で行うことを2013年の防衛計画の大綱(10年先を見通す)で決めていた。ところが17年11月の日米首脳会談でトランプ米大統領は「大量の兵器の購入」を安倍晋三首相に迫り、日本政府は12月に「イージス・アショア」の導入を決定した。

 突如トップダウンで押し付けられ、米国の意向を受けて秋田県、山口県に配備地点を決めたから、調査は著しく杜撰で、地元への説明などでの辻褄合わせの失態が次々に露呈した。

 滑稽なのは18年の防衛白書だ。イージス艦が21年度に8隻体制になれば「日本全土を2隻で継続的に防護可能となる」と従来の計画を述べつつ、他のページでは「現状(4隻)のイージス艦では隙間の期間が生じる」として「イージス・アショア」配備の必要を説き、近く8隻になることには言及しなかった。8隻目のイージス艦「はぐろ」(1万250トン)は昨年7月進水し、来年3月に就役する。8隻あれば2隻が定期点検に入っていても、交代で2隻ずつを日本海などに出す余裕は十分ある。

 イージス艦は垂直発射機に90発ないし96発の各種ミサイルを搭載できるが、弾道ミサイル迎撃用の「SM3」ミサイルは1隻あたり8発しか積んでいない。1発約40億円もするから多くは買えないのだ。北朝鮮は日本に届く弾道ミサイルを約300発保有し、うち約30発は核弾頭付きと推定される。核付きと、火薬弾頭付きのミサイルを交ぜて発射されれば、そのうち最初の8発に「SM3」を発射すると「任務終了、帰港します」とならざるをえない。1隻1700億円以上もするイージス艦に8発とは「万全の態勢」どころか、形ばかりだ。

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