AERA 2020年6月22日号より
AERA 2020年6月22日号より

 LGBTの人たちが普段から抱えている「アウティング」の不安。コロナ禍ではそれがより現実的なものとなっている。AERA 2020年6月22日号では、コロナ禍の不安について性的マイノリティーの人たちに聞いた。

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「恐れる事態が増えて、不安がより身近になった気がします」

 横浜に住むレズビアンの女性(44)は、そう話す。

「不安」というのは、コロナ禍の中、会社に自らのセクシュアリティーが意図せず知れ渡る「アウティング」だ。

 52歳のパートナーと一緒に暮らしているが、最も心配しているのは職場へのアウティングだという。アウティングの不安は以前からあったが、新型コロナウイルスの感染拡大によって、それが現実味をもって感じられるようになったと話す。

「例えば、パートナーが感染して、『国内で今週の感染者は50代の女性1人だった』と報道があったとします。私は会社に報告義務があるので『同居人が感染しました』と伝えますが、報道された50代女性と自分とがつながり、私がレズビアンだとバレるかもしれません」

 職場ではLGBT(性的マイノリティー)について話す機会がないため、セクシュアリティーについてどう思われるかわからない。「事実婚で男性と暮らしている」とだけ伝えている。バレないためには感染を避けなければいけない。新型コロナが国内で広がってきた2月ごろからパートナーと相談して、時々遊びに行っていたゲイバーに行くのをやめた。

「感染した時、どこで感染したかで私のセクシュアリティーがわかるかもしれないので」

 ホストクラブやライブハウスなどがクラスター化すると、利用者たちの行動が追跡されることがあった。もし自分がゲイバーで感染したら、感染経路から類推されレズビアンだということがバレるかもしれない。

 今はテレワーク中だが、どんなに注意していても、いつどこで自分もパートナーも感染するかわからない。感染の不安は常につきまとうと言う。

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野村昌二

野村昌二

ニュース週刊誌『AERA』記者。格差、貧困、マイノリティの問題を中心に、ときどきサブカルなども書いています。著書に『ぼくたちクルド人』。大切にしたのは、人が幸せに生きる権利。

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