当初、ペレッツ監督は「タッカーの好ましくない点は観客にあまり見せるつもりはなかった」と話す。だが、イーサンが「タッカーの欠点や気難しさ、サイテーなところも出した方がいい」と強く主張。俳優であり監督であり脚本家でもあるイーサンだけに、実際に演じてもらった上で同意した、と振り返る。

「僕が不安だった時も、イーサンは『心配しないで。物語の最後にタッカーの短所を補うようにするし、逆にそこのバックストーリーがないとタッカーの物語は成立しないのでは』と言ってくれた。彼のように一つの見方ではなく、いろんなレベルで作品を見て関わってくれる役者と仕事ができるのは、監督である僕のメリットだよね」

 いまなお惑える大人たちに薦めたい。

◎「15年後のラブソング」
ペレッツ監督がイーサンと熱い議論を戦わせた音楽もお楽しみ。東京・新宿ピカデリーほか全国順次公開中

■もう1本おすすめDVD「アバウト・ア・ボーイ」

 ニック・ホーンビィの映画化作品の中でも、主演俳優に取材したこともあって忘れ難いのが本作だ。

 主人公のウィルは、「人間は誰でも孤島であり、一人でも夢のような島になれる」と豪語する傲慢(ごうまん)な独身男。38歳で一度も働いたことがなくても優雅な生活を送れるのは、クリスマスソングの一発屋で終わった亡父の印税のおかげだ。そんな彼がある日、12歳のいじめられっ子マーカスと出会ったことで、他人とのつながりに目覚めていく。

 ウィルを演じるのは英国俳優ヒュー・グラント。自分勝手な勘違い男を演じても、八文字眉のトホホな表情を見せられると、どこか見限れない。彼もまた、ホーンビィのコメディー作品にぴったりの俳優だ。マーカスを演じたニコラス・ホルトも、現在の成長ぶりと比べて見ると楽しい(そのイケメンぶりに驚く!)。

 18年前の作品だが、自分だけが幸せならいいと考える人は増える一方のようだ。それどころか、「わが国だけ幸せなら」と考える国の指導者までが増殖した。世界中が不幸なら自分たちだけが幸せになれることはない、ということを本作を観て悟ってくれないだろうか。

◎「アバウト・ア・ボーイ」
発売元・販売元:KADOKAWA
価格1500円+税/DVD発売中

(フリーランス記者・坂口さゆり)

AERA 2020年6月22日号