AERAで連載中の「いま観るシネマ」では、毎週、数多く公開されている映画の中から、いま観ておくべき作品の舞台裏を監督や演者に直接インタビューして紹介。「もう1本 おすすめDVD」では、あわせて観て欲しい1本をセレクトしています。
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英国の人気作家ニック・ホーンビィの小説を映画化した作品は、それだけで一つのジャンル──。そう話すのは、ホーンビィ原作のロマンチックコメディー「15年後のラブソング」を監督したジェシー・ペレッツ(52)だ。
主人公は、英国の海辺の小さな町で父ののこした郷土史博物館を引き継いだアラフォーのアニー(ローズ・バーン)。なんとなく15年も一緒に暮らす恋人ダンカン(クリス・オダウド)との関係にモヤモヤを抱いている。そんな彼女がひょんなことからダンカンが崇拝する、25年前に突然世間から姿を消した元ロックスター、タッカー・クロウ(イーサン・ホーク)と知り合ったことで、風変わりな三角関係に発展していく。
ホーンビィの小説といえば、愛すべき“ダメ男”が主人公であることが多い。本作はアラフォー女性が主人公だが、タッカーとダンカンという二人のダメンズが登場。ペレッツ監督が、
「二人の間でアニーというキャラクターが埋もれないように、どうやって彼女を見せていくか。演じるローズも一緒に作り上げていきました」
と言うほど、強烈なキャラクターたちだ。
ダンカンは、監督が「クリスしか考えられなかった」と言うほどのハマり役。アニーと暮らす家の地下室に崇拝するタッカーの資料を集めた「聖堂」を作り、そこで自身が運営するファンサイトの仲間たちと飽きることなく熱く語り合う。頑固で、自分が好きなことには近視眼的に徹底的にこだわる。
恋人よりタッカー優先、というオタクっぷりや、ある種の幼稚さにうんざりする女性は多いに違いない。だが、そんな彼だからこその、タッカーへのあるセリフが見る者の胸を突く。
一方、タッカーは各地に母親違いの子どもがいるという、浮世離れしたダメ男。音楽からすっかり離れ、今は5歳の息子とその母親の家の敷地にあるガレージを間借りして暮らす。祖父になる日も近い。女にだらしがなく生活感がないが、自分を飾らず正直なタッカーは、どこか憎めないチャーミングさが漂う。