クラウドファンディングによる「山小屋エイド基金」や子どもたちが寄付先を決める「ラーニング・バイ・ギビング」プロジェクトなど、新しい寄付の形が生まれている。近所のなじみの店を支援し、これまでの日常を取り戻したいという人たちも多い(撮影/写真部・張溢文)
クラウドファンディングによる「山小屋エイド基金」や子どもたちが寄付先を決める「ラーニング・バイ・ギビング」プロジェクトなど、新しい寄付の形が生まれている。近所のなじみの店を支援し、これまでの日常を取り戻したいという人たちも多い(撮影/写真部・張溢文)

 新型コロナウイルスの流行は、日本の寄付市場に大きなうねりをもたらした。これまでなじみのなかった人が寄付に取り組んだり、新しい形が生まれたりしている。自分が大切にする価値観に基づく寄付だ。AERA 2020年6月22日号で掲載された記事から。

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 都内の会社員男性(26)は5月、クラウドファンディングサイトを通して1万円を寄付した。初めての寄付だった。

災害時にも寄付を考えたことはあるけれど、余裕もなかったしどこか他人事だった。でも今回は、このままでは自分の趣味や生活が立ち行かなくなる危機を感じました」

 男性が寄付したのは、登山雑誌などを出版する山と溪谷社が立ち上げた「山小屋エイド基金」だ。支援者から資金を集め、賛同する全国の山小屋へ均等に分配する。支援金は休業による損失の補填や設備投資など、小屋ごとに自由に使ってもらうという。クラウドファンディングでは豪華なリターン(返礼品)を用意して寄付を集めるプロジェクトも多いが、同基金は「最大のリターンは登山の存続」だとして、宿泊券など支援先の負担になるリターンは設けていない。それでも、5月18日のスタート初日に当初の目標額300万円を突破し、6月11日時点で5600万円余りを集めている。

 山小屋は時として、究極の「3密」空間となる。避難先としての役割があるため、予約がなくても宿泊を断らないところが多く、予約自体を受け付けない小屋もある。ほとんどは雑魚寝で、人気エリアのピーク時期なら一つの布団を2人以上で使用することも珍しくない。コロナ禍での通常営業は夜の飲食店以上に難しく、すでに70以上の小屋が年内の休業を決めた。このままでは多くの山小屋が存続の危機に立たされる。山と溪谷社で山小屋エイド基金を担当する内田雄紀さんは言う。

「山小屋は単なる宿泊施設ではなく、登山道整備や遭難者救助など登山文化全体を支える存在です。つまり、山小屋が倒れると登山という行為そのものの存続にかかわります。危機感を多くの登山者が共有し、支援を寄せてくれているのだと思います」

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川口穣

川口穣

ノンフィクションライター、AERA記者。著書『防災アプリ特務機関NERV 最強の災害情報インフラをつくったホワイトハッカーの10年』(平凡社)で第21回新潮ドキュメント賞候補。宮城県石巻市の災害公営住宅向け無料情報紙「石巻復興きずな新聞」副編集長も務める。

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