木村 ひとつの事柄に二つ以上の意味をつけることが不得手になる。すべて1対1の対応となり、言葉の裏の意味を読むのが苦手になってしまう。その傾向がASDの特性と捉えられてしまうことがあるんです。ところが生育歴をきちんと追っていくと、じつは停滞であるケースも少なくない。体の発達から始まって、4歳ぐらいから子どもは記号・数字・言葉の世界に入っていきます。そこでの身体経験の積み上げがなく、勉強や日常生活動作がうまくできていない子も増えてきているんです。

安浪 だから体の感覚をつけていく基礎工事からやり直してあげないといけないわけですね。

田上 木村先生が言った基礎工事というのは、すなわち体の使い方を教えるということです。体を使うトレーニングをしていると身体性が上がり、学習面も少しずつ向上して、勉強についていけるようになることが少なくないんです。「姿勢を正そうね」「字を書くときは手を添えよう」と声をかけるだけでも、落ち着いて学習に取り組めるようになっていきます。

安浪 先ほど木村先生が、私立に入学してもうまくいかなくて、その後不登校になる子たちもいるとおっしゃっていました。そうなると「公立中も心配、でも私立に行って不登校になるかも。じゃあ、どこに行かせればいいの?」と親はなると思うんです。

田上 2016年に「教育機会確保法」という法律ができて、就学機会の確保ということが保障されました。もうすでに学校だけが学びの場ではないということになっていて、フリースクールも教育委員会と連携すれば出席扱いになります。ということは、極端かもしれないけれど、公立中学に籍だけ置いて、フリースクールに行くという選択も可能なんです。N中・N高みたいなオンラインによる通信制の学びの場もできている。今回のコロナ対応で、オンライン学習も一気に進む可能性があります。グレーゾーンの子たちが、それによってイキイキしてくるかもしれない。この先は学校という“箱”にこだわる必要はまったくなくなっていくと思います。

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