そこで、在宅勤務への移行で支給を止めていた通勤手当の代わりに、半年で6万円の「在宅勤務手当」を支給。自宅の環境整備を進めるよう促した。手当は今後のテレワークの状況をにらみながら、延長も検討する方針だ。メルカリ執行役員CHRO(Chief Human Resource Officer)の木下達夫さん(47)は言う。

「通信費の補助だけなら月数千円で足りるかもしれません。それを月1万円にしたのは、オンラインでのランチや飲み会で、社員同士の交流を深めてほしいというメッセージを込めたからなのです」

 エンジニアが多く、社員の年齢層も若いだけあり、見込み通り、社員間のコミュニケーションはオンラインツールを通じて活発に行われた。エンジニア250人がチームごとに参加した、プログラム開発を競い合うイベント「ハックウィーク」も、すべてオンライン上でのやり取りだった。にもかかわらず、リアルで開催された前回以上の盛り上がりを見せた。

 オフィスが閉鎖されたことによる雑談不足を補おうと、コミュニケーションツール「Slack(スラック)」上に、自然と「雑談用」や「悩み相談用」のチャンネルが立ち上がった。

 さらに、契約書に社印を押すために出社する社員を減らそうと、電子署名で対応してもらえるよう取引先に依頼したり、コアタイムなしのフルフレックス制を試験導入したりと、矢継ぎ早に対応した。

「パイロット(試験運用)は、どんどんやってみたほうがいい」

 経営幹部の会議で、CEOの山田進太郎さんもこう後押ししたという。

 4月に入り、原則在宅勤務となって1カ月以上が経った。木下さんには、気がかりなことが出てきた。経営幹部と社員との距離感の変化だ。

「直属の上司とは1対1のオンラインミーティングをこまめにして、リモート前よりもむしろコミュニケーションが取れていることが社員アンケートで分かりました。ただ、役員とオフィスで偶然会って話したり、ランチをしたりする機会はなくなっているのではないか、と」

 そこで、経営幹部らとオンライン上で自由に話せる「オープンドア」を開催。元々はリアル会議室で実施していたイベントだったが、これをオンライン化。お酒やお茶を飲みながらの参加もOKだ。直接話さずラジオのように聞くだけでも、オフィスにいるような「雑談」を耳にでき、心の距離はぐっと近くなったという。

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