神奈川県内の酒販会社で営業の仕事をしている男性(38)は、以前は明らかな口呼吸で、冒頭の口呼吸チェックリストのほとんどの項目が当てはまった。口を開けて寝るためいびきがひどく、たまりかねた妻に寝室を別にされたほど。口臭もひどく、妻や娘から「口が臭い」と言われていたが、仕方がないとあきらめていた。

 しかし1年ほど前、転職先の会社で泊まりがけの社員研修があることを知り、同室の同僚にいびきで迷惑をかけるわけにはいかないと一念発起。あいうべ体操の存在を知り、毎日車で移動中に続けた。同時に、睡眠中口に治療用のテープを貼り、口を閉じて寝るクセをつけた。

 これを2カ月続けたところ、いつの間にか自然と鼻呼吸ができるようになった。いびきがおさまっただけでなくぐっすり眠れるようになり、仕事のパフォーマンスが向上、口臭も改善した。男性はこう話す。

「いびきを治そうと思って始めたら、口臭まで改善した。いつもぽかんと口を開けていて『だらしない』と指摘されたこともありましたが、口元がひきしまって見た目の印象もよくなったといわれます」

 あいうべ体操をすると、顔の血流がよくなることも報告されている。1分間、約10セットのあいうべ体操で舌の大きな筋肉を動かした前後にサーモグラフィーで計測してみたところ、体操後は顔から首にかけての表面温度が明らかに上昇していたという。ほうれい線が薄くなる、たるみが改善した、小顔になる、顔がスッキリするなど、美容的な効果も報告されている。

「人間は1日に2万回以上呼吸をし、1万リットル以上の空気を吸い込んでいます。コロナ禍で生活が変わり、体調不良やストレスを訴える人は多い。これを機会に毎日の呼吸を変えることは、たまに運動をする以上に大きな健康効果をもたらすはずです」(今井医師)

(ライター・谷わこ)

●一つでも当てはまったら口呼吸の可能性あり □いつも口を開けている □くちびるがいつも乾いている朝、起きたときに喉がヒリヒリと痛む □口臭が気になる □くちゃくちゃ音を立ててものを食べている □軽く口を閉じたとき、舌が上あごについていない □口を閉じるとあごに梅干しのような膨らみとしわができる □いびきや歯ぎしりがある □二重あごである □タバコを吸っている □激しい運動をしている □過呼吸を起こしやすい

今井医師への取材を元に編集部で作成

AERA 2020年6月15日号より抜粋