日常でふと覚えた違和感も、ネット上なら吐き出せる。見知らぬ誰かが誰かに向けた言葉に共感する。匿名だからこそ本音があふれる。だが、匿名性の高さゆえに人を傷つける言葉も飛び交う(撮影/写真部・小黒冴夏)
日常でふと覚えた違和感も、ネット上なら吐き出せる。見知らぬ誰かが誰かに向けた言葉に共感する。匿名だからこそ本音があふれる。だが、匿名性の高さゆえに人を傷つける言葉も飛び交う(撮影/写真部・小黒冴夏)
AERA 2020年6月15日号より
AERA 2020年6月15日号より

 SNSでの誹謗中傷に対して、発信者の特定を容易にできるようにする法整備への議論が本格化している。一方で、真っ当な批判や意見表明ができなくなることを危惧する声もある。AERA 2020年6月15日号から。

【SNS各社の誹謗中傷や不適切投稿への対策はこちら】

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 5月23日、人気リアリティー番組「テラスハウス」に出演していたプロレスラーの木村花さん(享年22)が亡くなった。SNSでの誹謗中傷(ひぼうちゅうしょう)に悩んでいたという。

 木村さんの死が報じられると、誹謗中傷に警鐘を鳴らす発言が相次いだ。目立ったのは、ツイッターに投稿された著名人たちの声だ。

 歌手のきゃりーぱみゅぱみゅさんは「誹謗中傷を気にするななんて難しいよ。芸能人だって1人の人間だよ忘れないで」、前澤友作さんは「SNSでの行き過ぎた誹謗中傷行為には厳罰を。スルースキルとか言ってる場合じゃない。被害受けた人はスルーせずに被害届けを。被害者のアクションが全体の抑止力になる。僕もスルーせずにこれからは遠慮なく被害届けを出す」と発信。「#SNS上の誹謗中傷が法に基づいて裁かれる社会を望みます」というハッシュタグも生まれた。

 その裏で、木村さんを誹謗中傷していた人たちが次々とアカウントや投稿の削除をはじめた。誹謗中傷に法的措置をとる動きが強まると、アカウントに鍵をかけたり、謝罪DMを送ったりする人も相次いだ。「自分の書き込みは誹謗中傷に当たるのかを知りたい」という相談も、弁護士のもとに殺到したが、その大半が匿名や非通知での問い合わせだったという。

 インターネットが普及してから、誹謗中傷の問題は常につきまとってきた。だが、投稿者に法的措置を取りたくても、サイト運営者を相手に発信者情報の開示を請求するだけで時間と労力がかかる。ジャーナリストの津田大介さん(46)は言う。

「匿名で発信できる環境では、ユーザーのモラルを改善することは困難です。開示請求を弁護士に依頼すれば最低60万円ほどかかり、経済的な負担も大きい。発信者情報開示請求のプロセスの簡素化は急務です」

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福井しほ

福井しほ

大阪生まれ、大阪育ち。

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