DIDでは多くの視覚障害者がスタッフとして働いている。左から2番目が渋谷さん(写真:ダイアローグ・ジャパン・ソサエティ提供)
DIDでは多くの視覚障害者がスタッフとして働いている。左から2番目が渋谷さん(写真:ダイアローグ・ジャパン・ソサエティ提供)
AERA 2020年6月8日号より
AERA 2020年6月8日号より

 多くの人の生活を変化させた新型コロナウイルス。中でも視覚や聴覚に障害のある人々の生活には、大きな影響を与えている。AERA 2020年6月8日号では、障害を抱える人たちのコロナ禍の生活に迫った。

【障害を抱える人たちはコロナ禍でどんな変化や不安を感じたか?】

*  *  *

 新型コロナウイルスの感染者数を伝えるニュースが、天気予報と同じようにテレビのルーティンとなっている。アナウンサーは、感染者数を示すデータを指しながらこう原稿を読む。

「今日の感染者数は、このようになっています。このように推移しています」

 視覚障害を持つ渋谷美紀さん(34)にとって、視覚化されたテレビやネットの情報を把握するのは困難だ。コロナ関係の特設サイトは情報量が多く、ただでさえわかりにくい。とくにオンライン上の生活情報は、映像やインフォグラフィックが多く、言葉による読み上げの説明がないため視覚障害者には理解しづらい。また、人と人との距離をとるソーシャルディスタンスは、3密回避と共に、コロナ禍の当然の生活様式として定着しつつあるが、人に触れることができない状態は、渋谷さんら視覚障害者にとっては、移動ひとつとっても自由が制限される。

「これまでであれば、階段など障害があって困っていても、近くにいる人に『肩を貸してください』と言えば、多くの人が肩を貸してくれました。けれども、コロナ禍ではそうはいきません。そもそも、その一言がとても言い出しにくいのです」

 移動の自由という点では、肢体不自由のある電動車椅子を使用している人にとっても深刻だ。駅前に買い物に行っても、緊急事態宣言中は駅ビルが閉鎖、来店者用の車椅子対応のエレベーターが使用できず、生活に必要な店舗が開いていても買い物そのものを諦めるしかない。

 さらに聴覚障害者にとって「電話」や「オンライン」を前提とした情報取得を強いられる環境は、不安とストレスが募る一方だ。それが、命に関わる優先度の高い情報の場合はなおさらだ。これまでであれば、体調に不安を感じたら、まずは地域の病院を受診すれば済んだ。目が見えなくても、病院に行きさえすれば看護師らスタッフが対応してくれた。

次のページ