「『時短・無駄無し・省エネ料理』と『保温調理』」の章では、敗戦直後の燃料不足の時代に提唱された保温の知恵を当時の婦人雑誌から見つけだす。一方で「路上自炊のばんごはん参加記録」の章では30年前、ホームレスたちの路上自炊に出合って感銘を受けた体験が生き生きと描かれる。魚柄さんは、街の生活者たちの食生活の知恵も見逃さない。

「これから先、食糧危機もやってきますよ。そこで求められるのが自分のスキルです。スーパーで列をなして加工食品ばかり買っていてはダメ。こんな非常事態でも、僕はよし、やるぞって気持ちになる」

 次作の予定は日本における麺類の歴史だそうで、これがめっぽう面白いと嬉しそうに語る。魚柄流実践論、台所に立つ活力を与えてくれそうだ。(ライター・田沢竜次)

■Pebbles Booksの久禮亮太さんオススメの一冊

 頭足類研究の第一人者、池田譲さんによる『タコの知性 その感覚と思考』は、タコとヒトの知恵比べをするという、なんとも微笑ましい一冊。Pebbles Booksの久禮亮太さんは、同著の魅力を次のように寄せる。

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 鏡に映る自分の姿を理解し、ある種の情動を表情に表し、仲間と社会を作って生きる。チンパンジーならともかく、これがタコの生態だというのだから、驚く。

 かつて『イカの心を探る』(NHK出版)でイカの精緻(せいち)な身体と頭脳、社会性を紹介した頭足類研究者が、今度はタコ研究の最先端を伝える。

 タコは大きな脳と眼、無数の触覚センサー、それらを繋ぐ神経細胞を持ち、道具を使うこともできる。また体表に色素胞と反射細胞を持ち、それらを瞬時に操ることで、環境や他の生き物に擬態するだけでなく、怒りや驚きといった情動を色や模様の変化で表現することすらあるという。

 著者と研究チームは、タコの賢さを信じ、さまざまな仕掛けで反応を探る。タコとヒトの知恵比べが微笑ましく、タコに親愛の情が湧く。たこ焼きを口にしづらくなった。

AERA 2020年6月8日号