魚柄仁之助(うおつか・じんのすけ)/1956年福岡県生まれ。食生活・食文化研究家。94年『うおつか流台所リストラ術』(農文協)でデビュー。Web上で台所技術向上講座を展開中。著書に『食べかた上手だった日本人』『国民食の履歴書』ほか多数(撮影/横関一浩)
魚柄仁之助(うおつか・じんのすけ)/1956年福岡県生まれ。食生活・食文化研究家。94年『うおつか流台所リストラ術』(農文協)でデビュー。Web上で台所技術向上講座を展開中。著書に『食べかた上手だった日本人』『国民食の履歴書』ほか多数(撮影/横関一浩)

 AERAで連載中の「この人この本」では、いま読んでおくべき一冊を取り上げ、そこに込めた思いや舞台裏を著者にインタビュー。「書店員さんオススメの一冊」では、売り場を預かる各書店の担当者がイチオシの作品を挙げています。

 魚柄仁之助さんの著書『うおつか流食べつくす! 一生使える台所術』では、食べものを無駄にしないための「食べつくす」技術・ノウハウを実践指南。自らの経験、エピソードを織り交ぜ、昔の婦人雑誌の記事も駆使しつつ展開する食のスキル、生きる知恵を説く。著者である魚柄さんに、同著に込めた思いを聞いた。

*  *  *

 タイトルの「食べつくす」とは<あらゆる食材を食べつくせる状態に調理・加工できる技術を持つこと>だという。たとえば「ブロイラーが地鶏、ムネ肉がサラダチキンに!?」の章。格安で買えるブロイラーの胸肉を誰でも出来る方法で高級地鶏並みにレベルアップさせてみせる。あるいは「朝採れ胡瓜・月100本との闘い」の章では、同居人が実家の長野から担いできた胡瓜を、ミルク煮、きんぴら、天ぷら、カレー煮など意表をつく料理法で「食べつくす」。

 食の研究家にして実践家の魚柄仁之助さん(64)のデビュー作は、1994年刊行の『うおつか流台所リストラ術』だ。それは既成の料理本とは一線を画す台所の変革を説いた料理指南書であった。

「当時、僕はレシピは絶対書かないと決めていた。人はすぐ『教えて』でしょ。まず自分で考えようと。つまり『〇〇の作り方』ではなくて、それを習得するためにはどんな術を使うかなんですよ。だから本書もその26年前の発想からつながっているんです」

 自宅に伺って驚嘆したのは戦前から戦後までの膨大な家庭生活・料理・食文化関連の雑誌・付録の数々。すべて電子データ化され、近現代の食生活の知恵とヒントがここに集積されている。そして研究の成果は日々の「台所」に生かされる。先の胡瓜の天ぷらやカレー煮も何と明治から昭和の料理本に載っていた。

「日本人は比内地鶏でも有機無農薬でもブランド志向が強い。それでちょっと傷んでいたり形が変わっていたりしたら買わない。賞味期限が一日長い方に飛びつく。食品ロスをなくせとか持続可能な社会とか言うけど、自分で料理もしない男社会の発想なんですよ」

次のページ