雑誌「ビッグイシュー日本版」を販売する男性。運用の問題から、今は保護を受けたいとは考えていない。家族とは連絡が途絶えているという(撮影/編集部・小田健司)
雑誌「ビッグイシュー日本版」を販売する男性。運用の問題から、今は保護を受けたいとは考えていない。家族とは連絡が途絶えているという(撮影/編集部・小田健司)

 緊急事態宣言が解除されたが、新型コロナウイルスによる経済危機の影響で、今後、生活困窮者が社会にあふれると指摘する声もある。AERA 2020年6月8日号では、これから露呈するであろう社会の貧困や格差について取材した。

【コロナ禍、東京・山谷の一角で行われていた炊き出し】

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 政府は5月25日に東京や北海道など5都道県の緊急事態宣言の解除を決め、国内は「第1波を乗り切った」とのムードが漂う。路上生活者や貧困家庭の子どもへの影響などはそばにいなければ目に入りにくいが、ホームレスの支援を続けているNPO法人「抱樸」の理事長で牧師の奥田知志(ともし)さん(56)は、戦後最大とも予測されるコロナによる経済危機で、目に見えるはっきりとした形で生活困窮者が今後、社会にあふれると考える。

「リーマン・ショックのときも数カ月たってから問題が表面化しました。今回は夏以降に家まで失う人が増えるのではないでしょうか。今のうちに備えをしておかなければなりません」

■仕事と家を同時に失う可能性

 厚生労働省によると、コロナ禍を理由に解雇・雇い止めされたのは、見込みも含めて1万835人(5月21日時点)。奥田さんが特に心配するのは、住み込みで働く非正規雇用の人たち。仕事と家を同時に失う可能性があるからだ。

 実際に起きてもいる。3月中旬、長崎県のテーマパーク「ハウステンボス」は派遣従業員約30人との契約を、契約満了前に一斉に打ち切った。同社の借り上げ寮に入っていた人については、「3月末で退去してもらった」(広報担当者)という。

 こうした人たちが使える社会保障制度は生活保護だけではない。全国約900の自治体に窓口がある生活困窮者自立支援制度や、「求職活動をする」という支給の条件が撤廃された住居確保給付金、地域の社会福祉協議会が窓口になる生活福祉資金貸付制度などがある。

 使う側からみると、どうか。

 東京・新宿の都庁周辺で路上生活を送る男性(48)は、2011年からホームレスの人たちが路上で販売して収入を得ている雑誌「ビッグイシュー日本版」を売って生活している。

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