一方、日本人の留学生にとってギャップタームは、留学の準備期間としてむしろメリットだと松田さんは言う。

「アメリカの高校生も3年生は5月中旬ごろに終わるので、日本の高校生とのギャップが大きいわけではありません。日本からの留学の一番の壁は、学費などのコスト。奨学金制度の拡充のほうが効果的です」

 現在、検討されている9月入学は入学時期の後ろ倒し。7歳5カ月で義務教育に入る子も出る。先進国はおおむね6歳のため、グローバルスタンダードから大きく遅れることにもなる。

 さまざまな問題点が指摘されるなか、学校や保育の団体からも、9月入学はいま議論すべきことなのか、という疑問や反対の声が相次いだ。日本教育学会は「9月入学は6兆~7兆円の財政・家計負担を要するが、十分な効果が見込めないだけでなく問題を深刻化させる」と主張。解消すべきは、学習の遅れや、地域や家庭環境による学力格差で、実効性のある方法は9月入学以外にあると提言する。

 学習の遅れについては、オンライン学習の環境の整備に加え、学習範囲や入試の出題範囲を精選。さらに学級を少人数に再編成する。家庭環境による学力格差は学習指導員を増やして個別にケアをする。同会会長の広田照幸・日本大学教授は言う。

「ポイントは教職員などの増員です。教員を10万人、学習指導員や職員を13万人増やし、手厚く学力補充や個別指導をすれば問題に対応できる。7兆円もかけなくても1兆円でできます」

 ネットには「#9月入学本当に今ですか?」の署名活動も立ち上がった。発起人のひとり、末冨芳(かおり)・日本大学教授は言う。

「世界各国のコロナ対応を見ると、政府は人々の不安にどう寄り添い乗り越えるかに腐心しています。混乱の最中に学事暦を変えようとしているのは日本くらいです。9月入学の議論は、高校生を賛成派と反対派に分断し、未就学児の保護者たちの不安をあおり、受験生たちも入試の時期が見通せない、宙づりの状態にいます。国が人災ともいえる、さらなるストレスを国民に与えているわけです。9月入学は、今しないといけない議論でしょうか」

 慎重論を唱える人たちの多くは、9月入学そのものを全面否定しているわけではない。大きなテーマだけにじっくり時間をかけて取り組むべきだと考えている。問題提起した高校生たちの署名も、1カ月におよんだ議論も無駄ではない。

 国は、来年の9月入学について、6月上旬にも判断すると見られる。論点も課題も出尽くしたいま、コロナ禍で民意を見誤った失策が続く安倍政権に、適正な判断ができるのか。懸念はその一点だ。間違っても、9月入学を第2のアベノマスクにしてはいけない。(編集部・石田かおる)

AERA 2020年6月8日号より抜粋