だが、アレンジと演奏は一筋縄でいかないほどユニークだ。そもそもattcがサウンドの軸とするロックステディというのは、ジャマイカの伝統的な大衆音楽がスカからレゲエへと変遷していく中で、1960年代後半の一時期に流行した音楽のこと。そのゆったりとした「裏打ち」のリズムに乗って、柳家小春が奏でる三味線と心地よい節回しの歌が重なってくる。それがこのアルバムの基本的なスタイル。だが、1曲の中で三味線、ギター、ベース、ドラム、鍵盤の音が顔を出すアンサンブルは、「日本とジャマイカ」以上のバックボーンをチラつかせてくれるから面白い。

 ピアノが聞こえてくると、ちょっとアメリカ南部のニューオーリンズのセカンド・ラインのよう。また、高いトーンで鳴るギターの音色は、タイやラオスの民族音楽であるモーラムを想起させる。「大津絵 両国」の終盤にテンポが速くなっていく様子は、アメリカのルイジアナを発祥とするケイジャンやザディコのような高揚感にも似ている。

 しかしそこで思うのは、こうした世界中の伝統音楽は、一般庶民の中で芽生えて広がった大衆文化の一つだということだ。具体的な音楽性や使われている楽器は異なるが、人びとの日々の暮らしを豊かにしてきた市井の芸能であることに違いはない。例えば、ケイジャンという音楽は、もとはフランス人がカナダ経由でアメリカに入植する過程で誕生したものだ。アメリカが多民族国家である事実を裏付ける歴史的にも重要な音楽文化だが、どこか悲しげなムードで旋律を奏でたり歌にしていたりする点で、柳家小春の歌や三味線の音色に通じるものがある。

 「縁かいな」というタイトルは、そういう意味では奥ゆかしくもある一定の確証を伝えるものと言ってもいいだろう。「縁」どころか、世界は様々な地域の音楽でできているのだ、と。

 この作品をリリースしているのは、東京のインディー・レーベル「スウィート・ドリームス」。韓国のイ・ラン、アメリカのタラ・ジェイン・オニールといった女性シンガー・ソングライターや、日本国内の音楽家でも名古屋のGofish、京都のMOON FACE BOYSなど一味違うアーティストをピックアップしていることで知られている。このレーベルから届けられる作品に触れると、まさにその「世界は様々な地域の音楽でできている」ということを実感するのである。
(文/岡村詩野) 

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岡村詩野

岡村詩野

岡村詩野(おかむら・しの)/1967年、東京都生まれ。音楽評論家。音楽メディア『TURN』編集長/プロデューサー。「ミュージック・マガジン」「VOGUE NIPPON」など多数のメディアで執筆中。京都精華大学非常勤講師、ラジオ番組「Imaginary Line」(FM京都)パーソナリティー、音楽ライター講座(オトトイの学校)講師も務める

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