「彼女と話していて感じたのは、彼女自身の中では白黒はっきりしているということだった。イラク戦争は違法だと思っている、何十万人もの命を奪う戦争を阻止しなければならない、と。彼女は自分の人生を破壊しかねないことを承知のうえで危険を冒した。決心は変わらなかった。彼女は自分の考えが間違っていないと信じていた。それこそが勇気というものだと思う」

 それでは、もし自分がキャサリンと同じ立場になったとしたら?

「誰もが彼女のように振る舞うと思いたいでしょう。でも私は自分の生活を守るため、サバイバルするために沈黙を選ぶかもしれない。ほとんどの人はそうすると思う。それが人間の悲しい点で、真実を語った人たちはその後でとても苦労することになるから。子どもには真実を語ることの大切さを教えるのに、現実の社会ではそれが通用しない。現実は複雑だと思う」

◎「オフィシャル・シークレット」
戦争を止めようとした一人の女性の実話。近日公開

■もう1本おすすめDVD「スノーデン」

 高校を中退したエドワード・スノーデンは9.11の後、志願兵として米軍に入隊、イラク戦争に志願した。キャサリン・ガンとスノーデン、2人ともイラク戦争によって人生が劇的に変わった。この接点は実に興味深い。

 ベトナム戦争での実体験をスクリーンに焼き付けた「プラトーン」(1986年)をはじめ、多くの作品を通じて米国政府への批判を展開してきた社会派監督オリバー・ストーン。スノーデン事件を追った2冊のノンフィクションを原作に、彼が監督・脚本を担当したのが本作だ。スノーデンを演じるのはジョセフ・ゴードン=レヴィット。外見が似ている、という理由でストーン監督が指名したという。

 2013年、香港。スノーデンと英ガーディアン紙の記者が、ドキュメンタリー映画作家ローラ・ポイトラスから取材を受けているシーンで幕が開く。そこからスノーデンの04年以後のキャリアと私生活を振り返りつつ、世界を震撼させた暴露がどのようにして行われたのか、その一部始終を描いていく。米国家安全保障局の介入を恐れたストーン監督は、主要なシーンの撮影を米国ではなくヨーロッパやアジアで行った。

◎「スノーデン」
発売元:ショウゲート 販売元:ポニーキャニオン
価格3800円+税/DVD発売中

(ライター・高野裕子)

AERA 2020年6月1日号