AERA 2020年6月1日号より
AERA 2020年6月1日号より

 コロナ禍のいま、ストレスを抱えているのはみんな同じだが、とくに医療従事者は計り知れない。彼らのために社会ができることとは。AERA 2020年6月1日号から。

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 多くの都道府県で緊急事態宣言があけても、新型コロナウイルス感染症が終息するまで、医療従事者たちは最前線で職務にあたることになる。
こうしたなか、いまも最も強いストレスに晒(さら)されているのは医療従事者たちだろう。

 災害や事件・事故などによってもたらされる心理的影響について詳しい、日本トラウマティック・ストレス学会の加藤寛医師は、ダイヤモンド・プリンセス号での医療活動にも参加した経験を持つ。災害救援者などが特殊な活動下で受ける心理的影響は惨事ストレスと呼ばれ、阪神・淡路大震災などでもその対策の必要性が注目された。

「クルーズ船で経験したのは、惨事ストレスそのものでした」

 と、加藤医師は振り返る。自分が感染するかもしれないというリスク、その後の隔離による業務への影響、参加したことへの批判。これまでにないストレスを感じたという。

「コロナに対応した病院で、そうしたストレスから看護師さんが辞めてしまったという状況も耳にしました。支援が得にくい状況の中でギリギリのマンパワーで回している状況なので、そこで闘っている人たちへの偏見があると、闘えなくなる。医療崩壊を促進してしまうという意味で、これは最も避けなければいけないことです」

 大きなストレスのかかる医療従事者に対して、社会ができることは、差別には決して加担しないことだ。ねぎらいを届けることも力になる。

「最近は、ブルーライトアップで感謝と応援の気持ちを示す取り組みもありますが、とても意味のあることだと思います」

 一方で、危険な仕事に見合った報酬がなければ、長期的にモチベーションを保って働くことは難しい。加藤医師によれば、現状の危険手当は、病院や自治体によっても異なるが、1日数百円程度に過ぎないという。病院だけでなく、国や自治体の支援が必要だと訴える。

 そして、ストレスに心を侵食されないために、今回取材した全員に共通するアドバイスが、情報とのつきあい方だ。情報が氾濫するネット社会になってからの感染症のパンデミックは、誰しも初めて経験するものだ。不安を煽(あお)るような情報からは距離を置き、テレビやネットを見る時間を制限したり遮断したりすることも必要だという。

 メディアも不安を煽ったりあら探しをしたりする報道ではなく、正しい情報を適切な量伝えることが大切だと、改めて肝に銘じたい。(編集部・高橋有紀、小長光哲郎)

AERA 2020年6月1日号より抜粋

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小長光哲郎

小長光哲郎

ライター/AERA編集部 1966年、福岡県北九州市生まれ。月刊誌などの編集者を経て、2019年よりAERA編集部

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