稲垣えみ子(いながき・えみこ)/1965年生まれ。元朝日新聞記者。超節電生活。近著2冊『アフロえみ子の四季の食卓』(マガジンハウス)、『人生はどこでもドア リヨンの14日間』(東洋経済新報社)を刊行
稲垣えみ子(いながき・えみこ)/1965年生まれ。元朝日新聞記者。超節電生活。近著2冊『アフロえみ子の四季の食卓』(マガジンハウス)、『人生はどこでもドア リヨンの14日間』(東洋経済新報社)を刊行
気づけば道端のアジサイが咲き始めているじゃないか!なんか今年は5月を盗まれた感じ……(写真:本人提供)
気づけば道端のアジサイが咲き始めているじゃないか!なんか今年は5月を盗まれた感じ……(写真:本人提供)

 元朝日新聞記者でアフロヘア-がトレードマークの稲垣えみ子さんが「AERA」で連載する「アフロ画報」をお届けします。50歳を過ぎ、思い切って早期退職。新たな生活へと飛び出した日々に起こる出来事から、人とのふれあい、思い出などをつづります。

【写真】気づけば道端のアジサイが咲き始めていた

*  *  *

 コロナの話が急速に厄介になってきたのは、「健康な人でも、実は感染していて知らぬ間に他人に移している可能性がある」と言われ始めてからだと思う。

 私の場合、それまでは実にのんびりしたものであった。注意はするが、できるだけ普通にしていたかった。だって世の中を回さなければ皆共倒れ。免疫がないのだから感染するときはするだろうが、それは自分の責任で受け入れれば良いことと思っていたのである。

 だがこの「知らぬ間に」という話が出てから、そうも言っていられなくなった。何しろ自分が感染しているかは自分ではわからない。となれば究極、全員が部屋に引きこもり、他人と口もきかないことが正解となる。この話が出てから、皆が皆を監視し合う戦前のような空気が明らかに蔓延したように思う。で、緊急事態宣言が解除されようが、この困った事実にはいささかの変更もないのである。

 だが私、この恐ろしい牢獄から脱出する方法を思いついたのであります。

 自分も感染しているかもとビビる前に、既に感染していることを前提に行動を組み立てるのだ。すると案外シンプルなんである。ウイルスが拡散するのは口と手。なので他人と接するときはマスクをしてウイルスを飛ばさない。店に入るときは手を消毒してウイルスを持ち込まない。外では必要最低限のもの以外は触らない。

 この方法がいいのは、自分が感染者という前提だから他人をバイキンのように見なくて済むこと。これだけでも精神衛生上非常に良い。いやむしろ他人に病を移してはいけないわけだから気づかいが半端なく、「いい人」と評判になっている気がする(笑)。あと重症化してはいけないので健康生活に磨きがかかり、より健康になっていく感じ。

 あ、もちろん本当に感染してたら別ですよ。あくまでバーチャル感染。しかし全員がこういう行動をとれば感染は広がらないのではないだろうか。これこそニューノーマルと思うんだが。

AERA 2020年6月1日号

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稲垣えみ子(いながき・えみこ)/1965年生まれ。元朝日新聞記者。超節電生活。近著2冊『アフロえみ子の四季の食卓』(マガジンハウス)、『人生はどこでもドア リヨンの14日間』(東洋経済新報社)を刊行

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