「美術は不思議な世界で、多数決の原理が通用しません。10人中8人がいいというものが美しい、とは言えないのです。たとえばゴッホは生前、みんなが『あかん』と言ったけれど、後世にその価値が発見されました。これはとても重要なところです。美術館こそ、何かを決める時に右へならえではなく、なんとか粘ってほしい。それぞれの美術館で、規模や運営方法も違うから、その場所なりに、何かやり方がないかを考え、(この緊急事態に)食い下がろうとする姿勢が大事なんじゃないかと思います」

 映像作品「エゴオブスクラ」では、こんな言葉が語られる。

「真理や価値や思想は、身にまとう衣服のように着脱が可能である」

 さらにこう続く。

「これは私の個人的な実感ですが、しかしこのことはまた『日本』という国の歴史や文化にもあてはまりはしないでしょうか」

 戦後、日本人はどのような「衣服」を身にまとってきたのか。

 そして私たち自身は?

 新型コロナウイルスによって「新しい社会」のあり方が問われている今だからこそ、再開後、原美術館でぜひ考えてみたい。(ライター・矢内裕子)

AERA 2020年6月1日号より抜粋