壁には森村さん自身が書いた言葉の数々が展示されている。本展では「言葉」もまた、重要な役割を担っているのだ。

 森村さんは言う。

「美術との出会いは高校1年生の頃、油絵を描きたくて入った美術クラブです。描くことに熱中して、以来、美術の世界で生きてきました。ふと気づくと、私にとっての美術は、『油絵を中心とした西洋美術』でした。『日本に生まれて育ってきたのに、自分にとっての美術が疑いもなく西洋美術だったのはなぜだろう?』と、実はずっと考えてきたのです」

 森村さんが生まれたのは1951年。「いわゆる戦後教育を受けてきた」と語る。その影響を受けた自分とは何なのか、自問自答を続けてきたのだという。

 ゴッホの自画像をはじめ、名画や映画の登場人物あるいは歴史上の人物に、自らが扮するセルフポートレート作品で知られている森村さん。絵の中に違和感なく入りこむメイクや衣装を使い、時代や人種、性別をも超えて、多様な人物に成り代わってきた。

「セルフポートレートをテーマにしている以上、自分の生まれ育った場所と時代がどのようなものなのかを考える必要があると思っていました。それは『自分とは何者か』という問いと裏表の関係にあります」

(ライター・矢内裕子)

AERA 2020年6月1日号より抜粋