「新型コロナこころの健康相談電話」では臨床心理士22人が交代で対応している。相談者の年齢層は幅広いが、多いのは30代から40代だという(撮影/写真部・掛祥葉子)
「新型コロナこころの健康相談電話」では臨床心理士22人が交代で対応している。相談者の年齢層は幅広いが、多いのは30代から40代だという(撮影/写真部・掛祥葉子)
「会って連帯することが難しいからこそ、電話やSNS、手紙などでお互いの思いを共有することが大事だと思います」(「新型コロナこころの健康相談電話」相談員の女性)(撮影/写真部・掛祥葉子)
「会って連帯することが難しいからこそ、電話やSNS、手紙などでお互いの思いを共有することが大事だと思います」(「新型コロナこころの健康相談電話」相談員の女性)(撮影/写真部・掛祥葉子)
AERA 2020年6月1日号より
AERA 2020年6月1日号より

 新型コロナウイルスの影響で生活や働き方への変化が生じ、追い詰められている人々がいる。居場所が失われれば、心身のバランスを崩しやすくなる。AERA 2020年6月1日号から。

【「心を弱らせない」九つのポイントはこちら】

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「こんなに心を追いつめられるなんて、想像もしなかった」

 IT企業の派遣社員の40代の男性はこう語った。関東圏の2世帯住宅に暮らし、1階には男性と両親と弟と4人、2階には妹夫婦と保育園に通う子ども2人が住んでいる。

 4月初旬、新型コロナウイルスの影響で男性はテレワークになった。ほぼ同時に保育園が休業し、共働きの妹夫婦は毎日子ども2人を両親に預けるようになった。そこから男性の心身のリズムが狂ってしまう。

「テレワークに集中しないといけないのに、子どもが奇声を上げたり走り回ったり、すさまじい暴れ方なんです」

 1カ月ほどはなんとか耐えたが、5月に入ると夜寝るときに「また明日がくるのか」と鬱々(うつうつ)とするようになった。頭痛と激しい下痢も始まり、眠れない。

 追い打ちをかけたのが、家族の無理解だった。父親に「子どもを預かるのをやめてくれ」と訴えたが無視され、妹からは「ごめんね、お大事に」とメールが来ただけ。

 ある日、ついに爆発した。「うるさい!」と叫び、自宅の壁を蹴り、家の外に飛び出し、しばらくさまよい歩いた。このときの記憶はほぼ飛んでいる。

「どうかしていましたね。自分を制御できない感じでした」

 男性は心療内科を訪れ、医師から抗精神病薬を処方された。翌日には地元の法律事務所の相談窓口へも行った。

「弁護士さんからは『家を出た方がいいよ』と。割り切れて、少し気持ちがラクになりました」

 少し落ち着けたが、心の調子は戻らず、寝込むことも多い。

「いまの心配は、次に妹夫婦が子どもを預けに来た時、平静でいられるかどうか。間違っても子どもに手は上げたくない。コロナがなければ、こんなことにはならなかった」

 出口は、まだ見えていない。

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小長光哲郎

小長光哲郎

ライター/AERA編集部 1966年、福岡県北九州市生まれ。月刊誌などの編集者を経て、2019年よりAERA編集部

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